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【BLホラー】夢 その5

 夢人と別れ話をするために、渚はマンションで待っていた。  もう、明け方だ。  結局、夢人は帰ってこなかった。  渚に見切りをつけて出て行ってしまったのかもしれない。  ――夢人……最後に一目、会いたかった。  眠気で意識が遠のいてくる。  眠りたくない。  寝てしまったら、西村の夢の世界に行ってしまう。  失ってはじめて、存在の大きさを思い知らされた。  夢人。もう一度会いたい。  会って、謝りたい。  渚はソファーに横になった。  ただ、横になるだけ。眠る訳じゃない。  隙間へ引っ張る不浄のものの気配が濃くなる。  ――どうでもいい。夢人のいない世界には興味がない。  眠気や自分を狙う不浄のものの力に必死で抗っていたが、とうとう抵抗する気力も失せて、流れに身を任せてしまった。      ◇ ◆ ◇  夢の世界で、産婦人科の椅子型の診察台のようなものに全裸で手足を拘束されていた。  診察台に背を向ける格好で、西村が作業台の上に器具を並べている。 「何をするの?」  渚の怯えのにじみ出た声に、西村は顔を綻ばせた。 「なかなか来ないから、待ちくたびれたよ。今日は、渚にいいものをプレゼントしようと思って」  西村が嬉しくって仕方がないという風に満面の笑みを浮かべる。 「渚の後ろの穴は、もうすっかり俺の形を覚えただろ? だから、俺のものだって目に見える印を刻み付けようと思って」  金属片のようなものをとりあげると、渚の目の前に差し出した。 「これ、可愛いだろ? 渚の誕生日7月だっていうから、ルビーを用意したよ」  よく見ると、それはルビーがあしらわれたシンプルなピアスだった。  同じものが全部で3つ、台の上にある。 「楽しみだな。どんな声で、渚は啼くんだろう?」  西村の爪が、きゅっと渚の乳首をつねりあげた。 「……んっ……」  予期せぬ痛みに、声が漏れる。  痛みを性的な興奮に置き換えるように覚え込まされた体は、すぐに熱を帯び高まり始めた。   「どこからはじめようか?」  そう言いながら、渚のペニスを乱暴に掴むと、先端の穴を親指の腹でごりごりと刺激した。 「あっ」  先走りの液で、ぬちゃぬちゃと卑猥な水音が響く。  羞恥のあまり、渚は、ぎゅっと目を閉じて顔を背けた。 「普通は麻酔をするみたいだけど、渚は痛い方が好きだろ?」  嫌だ、やめろ。そんなところに穴をあけられるなんて、誰でも嫌に決まっている。  そう思うのに、抵抗することも、拒否の言葉も出てこない。  恐怖で顔が歪み、涙が次から次と流れ落ちる。  西村は、嬉しくて仕方がないという顔をして、べろりと涙を舐め拭った。 「あぁ、本当に渚は良い顔で泣くよね。可愛くて仕方がないよ。じゃあ、特別サービスで、麻酔の代わりに俺のものを突っ込みながらにしてあげる」  そういうと、まだ慣らしもしていない窄まりに自分のペニスを押し入れた。  一連のやり取りが前戯の代わりになっていたのか、さしたる痛みもなく、ずぶりずぶりと西村のペニスを咥えこんだ。 「……はっ……はっ……」  西村が激しく腰を動かし始める。すっかり、渚の良いところを知り尽くしていて、すぐに追い立てられる。 「……あ、いくっ……」  その瞬間、ペニスの根元をぐっとすごい力で締め付けられるように持ち上げられると、尿道口から裏筋に向けて布団針のような太いニードルで貫かれた。 「ギャーーッッ」  口から動物の様な絶叫をあげていた。  ものすごい、痛みだった。  今まで、生きていた中で感じたことのないほどの壮絶な痛み。 「あぁ、すごい締まる! 渚、気持ちい! すごい!」  興奮した西村は、渚が痛みで悶絶しているのを全く気にすることもなく、ニードルを突き刺したまま、激しく腰を揺らした。  ほどなく、中で射精する気配がしたが、西村のそれは萎えることなく硬度を増したままだった。  抜かずに、2回戦に突入するつもりなのだろう。  そのまま軽く腰を動かしながら、すっかり萎えた渚のペニスからニードルを抜き取るとルビーのピアスを装着した。 「渚、お前の体、最高! 食いちぎられるかと思うほどの締め付けだったよ。次は、乳首にしようか? 右と左どちらがいい?」  両方の乳首を爪先で同時にいじりながら、渚に口づけをした時だった。  黒い塊が二人の間に割り込んだ。 「うわ、なんだこりゃっ!」  手首だった。  中指と人差し指の先にはかろうじて肉が残っているが、手のひらはすっかり肉が溶解し、白い骨が見えている。  さわるのもおぞましいドロドロの肉片をまとった手首が、西村の顔面を鷲掴みにしている。  この間から、渚を付け狙っている不浄のものだった。  眠りに着く直前、そう言えば手首を掴まれていた。  ……イタイ……イタイ  生きながら、手首を切り落とされたのだろう。  魂に刻み付けられ、不浄のものになっても、なお、逃れることのできない痛み。  それが、渚の痛みに共鳴して、暴走した。 イタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイ 「うわぁ」  西村は、必死に顔から引き剥がそうとしているが、手首はギリギリと締め上げる。  手足を拘束されたままの渚には、ただ、見ているだけしか出来ることはない。 「ぎゃー、やめろっ」  その時、ぐちゃりと嫌な音がした。  西村の頬骨が変な形にへこんでいる。  骨が砕けたに違いない。  手首は、はがれる気配はなく、ギシギシと締め付け続けている。  ――何とかしなくちゃっ! このままでは、握りつぶされてしまう。     「夢人っ 夢人っ! 助けてっ」  渚は、思わず、夢人の名を叫んでいた。  もう、二度と会うことは叶わないと諦めた愛おしい名前。 「渚っ!」  夢人だった。 「散れっ」    叫んだだけで、西村の顔を覆っていた不浄のものは跡形もなく消え去った。  そのまま、渚のところに来て拘束をはずした。  ぎゅっと、体を抱きしめられる。  背中が小刻みに震えている。  ――あぁ、夢人だ。  懐かしい夢人の匂いに泣きそうだった。  自分には、夢人しかいない。  夢人は着ていた上着を脱ぐと、渚に羽織らせた。 「夢人、どうやってここに来れたの?」 「あの不浄のものを追ってきたんだ。不浄のものと意識を同化させることができるから」 「え?」 「わざと祓うのをやめて、不浄のものが夢に紛れるのを待っていたんだ」  夢人の指が、ペニスの先のピアスに触れる。  痛ましげに、顔が歪む。 「夢人、帰ろう」  誤魔化すように、夢人の腕をとった。  ここで起きたことは、夢人に知られたくない。 「いや、折角、ここに来れたのに帰るわけないだろう?」  夢人は、ニヤリと笑うと、顔の骨を砕かれ半分意識を失いかけている西村の襟をつかみ、引き起こした。 「あんたも渚も、おかしくなってる。はっきり言って異常。この世界は、どうやら人の精神を破壊するみたいだ。不浄のものの臭いは感じないけど、それに類する存在は感じる。しかも、あんたに近い存在。今から、この夢の世界の謎を探るから」  そう言って、西村を引きずるように、ずんずんと奥に進んでいった。  

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