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1-4 トオル

 (あえ)ぎが()れて、俺はそれを(こら)えようとした。ひとりで(もだ)えると、なんか恥ずかしかった。アキちゃんと一緒にでないと。  声うるさいって、いつも言われる。そういう時のアキちゃんは、ちょっと意地悪で、お前の声はうるさいなあって俺を笑って、それでももっと責める。  たぶんアキちゃんは俺が声出すのは好きなんや。それを聞きながらやってる。だから今も、聞いてるんやろ。だから余計に、恥ずかしいような気がするねん。 「アキちゃん、嫌や、俺だけ気持ちよくせんといて」  上手いなあと思って震えながら、俺はアキちゃんに頼んだ。  前は下手くそやったのに、上手くなったなあ、アキちゃんは。  そらそうか。半年間、毎日毎晩やってれば、上手くもなるか。  アキちゃんは、俺が(よろこ)ぶのが気持ちいいらしくて、いつも(よろこ)ばせようとしてくれる。アキちゃんの気分が燃えてたら、一晩に何遍(なんべん)もいかされて、まさに昇天する心地やで。  けど俺は、自分だけいったら飢えんねん。知ってるはずやろ、アキちゃん。交歓(こうかん)せなあかんねん。お(あずけ)け食ったら体が飢えるけど、アキちゃんにお(あず)け食わせたら、もっと飢えんねん。 「抱いてよう、アキちゃん……」  なんか本気らしい舌使いに、俺は泣いた。朝は弱いねん、俺は。一発抜いてから、もう一回してくれんのか。そういう感じが全然せえへんのやけど。アキちゃん。 「やめてよ、そんなんしたらあかんわ。俺、()たへんよ、アキちゃん……」  でも、あんまり気持ちいいもんで、(くわ)えられてんのを無理に離そうとは思われへんかった。  捕らえられてんのは俺のほうで、アキちゃんやないって、そういう気がする。こういう時にはいつも。  アキちゃんにしてもらうと、なんでも気持ちいい。こうして()められんのも、手(つな)いで寝るのも、触れるだけのキスでも、ただ見つめ合うのでも、暖かい力に(ひた)されてる感じがする。  ほんまはただ(そば)にいるだけで、俺は飢えへんのかもしれん。でも、それだけやと切ないねん。  それはもしかしたら俺が、血を吸う外道やのうても、みんなそうなんかもしれへん。ただアキちゃんが好きなだけで、俺が化けモンやからやない。ただ好きなだけなんや。 「アキちゃん、もうイキそう……抱いてくれへんの。後でしてくれるんか……」  我慢しながら、俺が()くと、アキちゃんは俺を()めながら答えた。  学校行かなあかんねん、用事があるんや、と。  やりながら(しゃべ)らんといてくれ。ああもう、あかんやん。 「アキちゃん、もうあかん、やめて……やめて」  アキちゃんの顔を両手で(つか)んで頼む、俺の声は半分悲鳴やった。やめさせようとしてんのか、もっとやってくれ言うてんのか、自分でもわからへん。たぶん両方やった。  もうやめなあかん。アキちゃんの口ん中でいってまう。  それやとまずい。アキちゃんの中に出てまうやん。  でも、それを、やってほしい。俺のこと、飲み干してほしい。それって。何なんやろ。なんでそう思うんやろ。俺が男やからか。それとも、アキちゃんを我がものにしたい化けモンやからか。それとも、ただ、好きやからか。 「アキちゃん、もう我慢でけへんよ……やめて」  やめて、と、ずっと(うめ)いてたような気がする。長かったんか、一瞬か。アキちゃんは許してくれへんかった。たぶん、わざとなんやろ。俺を責めて、我慢でけへんようにした。  (こら)えきれへんかった最後の声が出て、首筋にエアコンの風を感じた。お前は熱いと、この家までが俺に言うてる。燃えすぎや、お前は。恥ずかしないんか、亨。そんなに乱れて。  そんなアキちゃんの意地悪い声を耳の奥に思い出しながら、俺は結局、最後の一滴まで、アキちゃんに吸われた。  それはめちゃくちゃ気持ちよかった。立ってる足がわなわな震えた。終わってもまだ気持ちいいくらいやった。  死にそう。気持ちよすぎて。アキちゃんに何かしてもらうのは、いつも、ものすごく気持ちいいんや。俺、愛されてるって、そういう気がして。 「アキちゃん……飲んだらあかん」  切なくはあはあしながら、俺は唇を離しても腰を抱いてくれてるアキちゃんの、まだ何か口に含んだような顔を見て、どうしようもなくおろおろしてた。  でもアキちゃんは涼しい顔してた。そのままテーブルにあったコーヒーカップをとって、アキちゃんはコーヒーを飲んだ。ごくりと喉が鳴るのを、俺は倒れそうな気持ちで見てた。 「もう冷めてたわ」  なんてことないような口調で、アキちゃんは言った。そして、ぺろりと唇を()めた。  コーヒーのことやろ。俺は腰がくだけそうやった。 「なんでそんなことするのん」 「お前がいつも美味(うま)そうに飲むから、実は美味(うま)いんかと思って」  う、美味(うま)いわけないやん。それとも美味(うま)かったんかと、俺は思わず()いた。なんか期待してたんかもしれへん。アキちゃんが、美味(うま)かったと言うのを。  でも、こいつが、そんなこと言うわけあらへん。意地悪なんやで。それに、つれない。 「不味(まず)いわ」  きっぱりと、アキちゃんは言った。そして、テーブルにあったティッシュで、口を()いた。

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