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5-6 トオル

 不思議やけどな、アキちゃんて、これには弱いねん。  自分が責めてる時には、我慢できるもんが、責められてる時には、我慢でけへんもんらしいねん。  それは世紀の大発見なんやけど、俺はずっと前から知ってた。弱いところをあれこれされると、アキちゃんが、やめてくれ亨、もうやめてくれ、もう我慢でけへんわって言うのは。  俺はそれが、けっこう好きなんや。許してやったアキちゃんが、ほんまにもう我慢でけへんというノリで、必死に俺を抱くのが。  さんざん()めて(いじ)めてやると、アキちゃんは今夜も、ああもうあかん、と切なそうに言った。もう入れなあかん、亨。我慢できんようになる。お前を抱きたい。  好きやて言うてくれたら、やらせてやってもええわと、俺が意地悪すると、アキちゃんは観念したみたいに、お前が好きやて言うてくれた。何回も言うてくれた。俺が言わせたからやけど。  何となく、このままアキちゃんをいかせてやりたいなと思って、俺はずっと意地悪してた。朝のお返しや。  ああ、つらい、俺はもうつらい、ってアキちゃんが(うめ)いた。苦しそうな声やった。  何をそんなに我慢してんのやろ。我慢せんでええやん、アキちゃん。  今さらやけど、今夜はやらへんつもりやったんやって、アキちゃんは俺に白状した。普通に映画観て、それから普通に寝ようかなって、思ってたんやって。  でも、もしそれが本気やったら、もっと夢中で見るような映画にするよな。スター・トレックっていう時点で、もうあかんて、アキちゃんはくよくよ言ってた。  それが面白くて、俺はやりながら笑ってた。それがまた(たま)らんらしい。しゃあない、それも朝のお返しやから。  結局アキちゃんは、そのまま俺に飲ませた。これ嫌いな男はおらへんで。アキちゃんも、めちゃめちゃ良かったらしい。  せっかく風呂入ったのに、ソファで汗だくやった。もう一回風呂入らなあかんて、アキちゃんは()やんでた。  でもどうせ、一晩に二回も風呂入るんやったら、それまでに、どんだけ汗かこうが、おんなじや。  ベッド行くなら、途中でやめなあかん。それが面倒くさいというか、惜しいような気がして、俺とアキちゃんは、ソファで組んずほぐれつ、果てしなくお互いを(なぶ)り合ってた。  こんなこと最近、やったことない。もしかすると初めてかも。  キスと熱い吐息(といき)とで(のど)(かわ)くんで、アキちゃんの舌からは、ときどき飲むジンライムの味がした。  アキちゃんは、酔っぱらってるんやないかと、俺はまた思った。アキちゃんが、指と舌とで、気持ちよくしてくれる。その合間に、心配せんでええねん亨、俺はお前が好きや、死ぬほど好きやて言うもんやから、これは絶対シラフやないでって、俺は照れくさかった。でも嬉しかった。 「アキちゃん、あいつには近づかんといて。あの、美少年。勝呂瑞希(すぐろみずき)て言うやつ」  俺の(あし)を開かせて、そこに顔を埋めてるアキちゃんの髪を(つか)んで、俺は切なく(たの)んだ。  あいつ危ないんやで、アキちゃん。近づかんといてほしい。二人きりにならんといて。アキちゃんは、そんなことを必死で(たの)む俺が、可愛いというふうな顔をした。 「なんで()いてるんや、亨。お前のほうがええよ。お前のほうが綺麗やし、俺が好きなのはお前なんやで。あいつはただの後輩やんか。もう、そんな話するな」  興奮させた俺を、愛しそうに見て、アキちゃんはそう命令した。  そんなこと言わんといて。どうしたらいいかわからへん。嬉しい。  せやけど、あいつの話はせなあかん。アキちゃんに、まだ言ってない。あいつが犬やで。アキちゃんが可哀想や言うてた、食い殺された女の子、その子を()ったんは、たぶん、あいつなんやで。 「抱きたい、亨。抱いてもええか」  俺の体を抱き寄せてきたアキちゃんに、俺は必死で(うなず)いた。抱いてほしい。  ベッド行こうかと、アキちゃんは(ささや)くような声やった。  もうここで抱いてほしい。足腰立たへんで。俺はもう歩かれへん。  そんな泣き言言ってたら、アキちゃんは俺を抱いて、寝室まで連れてってくれた。お前、軽いなあて、アキちゃんは(おどろ)いてた。  俺の体重なんて、あって無いようなもんやで。気分次第で、重くも軽くもなるわ。今はその、舞い上がるような心地やったからかな。それで軽かったんやろか。  アキちゃんの首にしがみついて、そう言うと、アキちゃんは笑ったみたいやった。たぶん照れくさかったんやろ。抱いて運ぶなんて変やったでって、きっと思ってるんや。  でも、いいやん、変でも。そんなん気にしてたらあかんわ。  早うしてほしいって頼む俺に、今夜はゆっくりやるわと、アキちゃんは答えた。そして、ほんまに、ものすごく時間をかけて、ゆっくりやった。  俺はアキちゃんの我慢強さに舌を巻いた。それだけやのうて、めちゃくちゃ(あえ)いだ。(もだ)えさせられた。  そこまで陶酔(とうすい)したんは久々やった。近頃アキちゃんはつれなかったからなあ。  気持ちいいって、その陶酔(とうすい)()ってると、あんまり幸せすぎて、すぐ目の前にある危機を忘れそうやった。  抱き合って、キスしてくれてたアキちゃんに、俺はまた必死で(たの)んだ。 「アキちゃん、お願いやから、浮気せんといて。俺だけにして。他のとこんなことせんといてくれ」  アキちゃんにゆっくり責められて、俺は切なかった。泣きつくような口調やった。あんまり気持ちよくて、体が震えてきて、もう限界って感じがした。  アキちゃん上手(うま)い。上手(うま)くなった。  初めてここで抱いてもらった時には、ほんまに慣れてなくて、やっと抱いてるって感じやったのに、今はもう、全然違う。(てのひら)の上で、転がされてる感じがする。  根が真面目(まじめ)やからか、アキちゃんは俺が(えつ)()るところを、いちいち全部憶えてて、容赦(ようしゃ)ないねん。それが時々つらい。自分ばっかり(よろこ)んでる気がして。 「アキちゃん、またイってまう。一緒にイってよ……ひとりだけはいややねん」  (ふる)えながら俺が(たの)むと、アキちゃんは分かったって言った。そして、もうちょっとの間、我慢しろて言うて、アキちゃんは、激しくやった。  なんかもう、ほんまにあかん。(とろ)けそう。抱えられた(ひざ)が、がくがく震えてきて、俺はもう、自分がなに考えてんのかも、よう分からんようになった。

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