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三都幻妖夜話(2)大阪編 6-4 アキヒコ | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(2)大阪編
6-4 アキヒコ
作者:
椎堂かおる
ビューワー設定
32 / 103
6-4 アキヒコ
訳
(
わけ
)
わからんか。そうか。そうやろな。お前みたいに、なんの
恥
(
はじ
)
も感じんと、やりたい抱いてて言えるやつには。 俺はな、
恥
(
は
)
ずかしいんや。お前とやりたい言うのが、死ぬほど
恥
(
は
)
ずかしい。 せやからお前が誘え。今までずっとそうやったやろ。 なんで急に、ちょっと血吸ったくらいで、
悟
(
さと
)
りをひらいたんや。お前の無限の
煩悩
(
ぼんのう
)
はどこへ消えたんや。俺だけエロエロ地獄においてけぼりか。 まさに鬼や。鬼の
所行
(
しょぎょう
)
や。 「やらへんの?」 全然欲情してない顔で、亨はけろりと
訊
(
き
)
いた。 「やらへん」 「なんで怒ってんの。やるの面倒くさいんやったら、
舐
(
な
)
めたろか。絵描きたいんやろ?」 描きながらお前に食われろいうんか。どこまで変態やねん俺は。その想像だけで俺は泣きそうやった。 「やめてくれ。そんなんせんでええねん。おかしいんや、俺は最近ちょっと。前はそうでもなかったのに、なんか今さらアレやねん……」 ちょうどいい言葉が見あたらんで、俺は
眉間
(
みけん
)
に
皺
(
しわ
)
寄せて口ごもった。しばらく続きを待ってた亨が、俺が黙ってるのを見つめて、ちょっとしてから話を
継
(
つ
)
いだ。 「
色狂
(
いろぐる
)
い?」 真顔で言われて、俺はぱくぱくした。 「そ……そこまでやないで」 「そうなんか。ほな
好色
(
こうしょく
)
ぐらいか」 亨は別に悪気はないみたいやった。俺はますます、青い顔でぱくぱくした。 それは何となく否定でけへんレベルの適語に思えた。俺って実は、
好色
(
こうしょく
)
なんちゃうの。 「普通やで、それは。アキちゃん。俺が欲しいんやろ。みんなそうなるんや。俺の飲んだやろ。混ざってきてんねんて。それに俺の
虜
(
とりこ
)
になりかけ中」 亨は気まずそうに、俺の目を見てそう言った。俺はますます
愕然
(
がくぜん
)
としてきた。 「な……なんやて。そんなん聞いてへんぞ」 俺は
慌
(
あわ
)
てて
訊
(
き
)
いた。 「お前並にエロエロになるなんて聞いてへん。それにお前……の、飲ませてたんか。誰にでも」 俺がワナワナ来ながら
訊
(
き
)
くと、亨はまずいなあというように、自分の顔を両手で
覆
(
おお
)
って、目を
揉
(
も
)
んだ。 「いや。誰にでもっていうか……誰にでもやないよ。役に立つやつだけやで」 「俺はお前の役に立つやつか」 そう言われて、俺は
猛烈
(
もうれつ
)
にムカっときた。やっぱりそうやったんかお前も、っていう気がした。 俺はな、お前にそれだけは言われたくなかったわ。今までの半年、繰り返し恐れてきた話やったわ。それをこんな話のついでで、けろっと言いやがって。 中学んときに告られて初めて付き合った女もな、友達から
本間
(
ほんま
)
くん変な子やで、あんな男のどこがええのんって言われて、えっ、うち別に本気やないんよ、だって
本間
(
ほんま
)
くん役に立つやんて言うてた。俺は運良くか悪くか、それをもろに聞いてもうたんや。 俺はな、頭ええから宿題写させてくれるし、それに金持ちの
坊
(
ぼん
)
やから、キープしといたらええことありそうな男なんやて。そんな女な、一瞬で
振
(
ふ
)
ったわ。友達にからかわれて
恥
(
は
)
ずかしかったんやって後で泣きつかれたけどな、もう知るか。めちゃめちゃ
醒
(
さ
)
めたわ。 せやから亨にも
醒
(
さ
)
めるかと思ったけど、全然やった。全然
醒
(
さ
)
めへん。ただ痛いだけ。お前は俺のこと好きやったんちゃうんかって、ただもうひたすら激痛。 「なんで怒ってんの、アキちゃん。怒らんといて」
哀
(
あわ
)
れっぽい声出して、亨が泣きついてきた。怒るな言うほうが無理やで。それでも、こいつが怒らんといてくれて言うんやからと思って、俺は必死に
我慢
(
がまん
)
してた。 「アキちゃんは、好きやからやで。でも俺は、そういうモンらしいねん。血とかアレとか飲むと、ものすごい力付くらしいわ。ただ抱くだけでも運が向いてくるらしいわ。せやから、その……まあ、ええか」 俺の顔色を見て、亨は青くなって押し黙った。俺はよっぽど怖い顔してるらしかった。 「とにかくな、あんまり飲んだらあかんねん。力付くだけならええねんけど、強すぎて、化けモンみたいになってくんで。しかも俺の
下僕
(
げぼく
)
やで。そんなん嫌やろ、アキちゃん」 俺の手を
握
(
にぎ
)
ってきて、亨は
切々
(
せつせつ
)
と
訴
(
うった
)
えた。 「嫌やけど……。そんならなんで、もっと本気で止めへんかったんや。お前、ほんまは、そうなりゃええのにと思ってんのやろ。そのほうが、都合ええんやろ。俺に焼き
餅
(
もち
)
焼かれてうるさいもんな。他の
下僕
(
げぼく
)
とも付き合うてやらなあかんのやもんな」 話の
勢
(
いきお
)
いで、俺は日頃思ってたことを口走ってもうたらしい。なんでそんなこと言うたんやろと、後には思うけど、その時は
悔
(
くや
)
しかったんや。 現実を直視したくなかった。亨は結局、俺ひとりのもんにはならへん。きっとそうなんや。俺の見てへんところで、他のとも何やかんやある。俺が亨に
隠
(
かく
)
れて、猫
撫
(
な
)
でてるみたいに。 どっちもどっちや。自分が後ろ暗いから、そういうふうに思えたんやろ。亨は俺だけが好きなわけやない。そう思ってたほうが
無難
(
ぶなん
)
や。いざという時に、死ぬほど痛い目に
遭
(
あ
)
わされへんように、用心しとかなあかん、て。 「他のって……アキちゃん。まだそんなこと思ってたんか」 亨はそれがショックやったみたいやで。そういう顔してた。 「俺、アキちゃんと会うてからは、他の誰ともしてへんで。ほんまやで。信じて」 「別に、したかったらしたらええやん。お前はもう、俺とは対等なんやろ。一方的に支配されてるだけやなくて、俺のご主人様なんやろ。好きにすりゃええやん」 「……俺がアキちゃんの
式
(
しき
)
やから、他のとせえへんのやと思ってたんか」 亨は真っ青な顔で
呆然
(
ぼうぜん
)
としてた。どことなく、ぼんやり
訊
(
き
)
かれ、俺は顔をしかめた。 「そうや。俺が
頼
(
たの
)
んだからやろ」 「違うで、それは。他のなんか、欲しないもん。アキちゃんがいれば、それでええんやで。ほんまにそうやで」 亨はかすかに、震えてるみたいやった。さっきまで幸せそうやったのに、
可哀想
(
かわいそう
)
やなって、俺は何となく他人事みたいに思った。 そしてだんだん、深く沈んできた。もともと沈んでた、自己嫌悪に。 もう底の底やて思ってたけど、地獄の底にも井戸は掘れるんやって、そういう感じやな。 「そうか。ごめんな。知らんかったわ……」 「知っといて……ほんまに……知らんで済まんことってあるで」 ふるふる震えながら真面目に言ってる亨の青い顔に、俺は小声で、そうやなと言って
頷
(
うなず
)
いた。 「アキちゃん、なんでそんなふうに思うてたんや。俺、アキちゃんのこと好きやって、ずっと言うてたやん。毎日言ってたで。信じてなかったんか」 「信じてなかったわけやないけど……わからへんねん。お前がなんで、俺が好きなのか」 「理由なんか、要るもんなん? そんなん俺もわからへんよ。わからへんけど……アキちゃんが、俺のこと愛してくれてるからやないか。俺が何者でも、愛してるって、そう思ってくれてるんやろ?」 違うんか、って、亨は震えながら
訊
(
き
)
いてきた。 違わへんよ。俺はそう答えたけど、ものすごい重いため息ついてたわ。
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椎堂かおる
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