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7-3 トオル
ホラーやでこれは。ベッド血まみれやしな、こっちは裸の男ふたりで、立ってるのは割烹着 でたすき掛 けのブスやで、ホラー級かつ微妙な笑いもとれる絵づらやで。
「ほっといてくれ。蛇 んときでも、割烹着 姿のお前よりか、俺のほうがマシやで。むしろ美しいぐらいやと、今はじめて自信が湧 いたわ。おおきにありがとうやで、トミ子」
いつもの猫とやりあう調子で、俺は毒づいたけど、言い過ぎやったかなと、さすがに後悔した。なんせブスでも相手は女やからな。そんなん言うたら傷つくんとちゃうやろか。
せやけどトミ子は俺の罵詈雑言 にはもう慣れっこやったんか、ふふんと笑っただけやった。怖いから笑わんといてくれ。殺人鬼みたいやで。お前の笑ってる顔見ただけで、ショックで人死ぬで。
「暁彦君に、なんか食べさせなあかんえ。三日も、水も飲んでへんのやから。うちが持ってきたるさかい、あんたが食べさせてあげ。うち、姿 見られとうないし」
「そうやろなあ……」
俺は悪口のつもりはなく、同情して相づち打ったんやで。アキちゃん死ぬで、お前の姿見たら。
「そうやろなあ、や、ないわ。ふてぶてしい蛇やなあ、あんたは。三日も暁彦君閉じこめて、死ぬほど血吸うて、それでよく、アキちゃん大好きやなんてデレデレ言うわ。独りよがりなんやから」
独りよがり部分を、トミ子はむっちゃ強調して言った。うるせえ。お前まで言うか。俺がうるさい件について。
気にしてんのやで、これでも一応。せやけど我慢でけへんねん、アキちゃん上手 すぎて。そんな話聞きたいか、聞きたいんやったら三日三晩でも惚気 続けてやるで、俺は。
「せやけど、今さらでも気ついてくれて、よかったわ。ほんまにこの部屋に入られへんかったんえ。あんたが蓋 してて。扉 開くのは、あんたが死ぬ時やろと思て、うち嫌 やったわ」
ホラー顔をしかめて、さらにホラー度を増した憂 い顔で、トミ子は可愛 げのあることを言った。
お、お前。可愛いやん。これでもし美少女やったらな、俺でもちょっと胸キュンやったで。目閉じて付き合えば、お前ってもしかしたら可愛い女なんとちゃうんか。
「そら、すまんかったな、心配かけて。でももう今すぐくたばる感じではないわ。足腰立たんでフラフラやけど、でも今日明日死にはせんわ。明後日 にはどうか知らんけどな」
「そうか。しぶといなあ、蛇は。生皮剥 いでもまだ生きてるて言うさかい、生き汚いんやろうなあ」
むっちゃ嫌そうにトミ子は言った。どっちやねんお前は、俺に死んでてほしいんか、生きてほしいんか。
「アホなこと言うとらんと、アキちゃんに、なんか食うもん持ってきたってくれよ」
「まずは何か飲まなあかん。重湯 作ってあるし、ほの温 いの飲ましてあげ」
くるりと背を向けて、トミ子はしずしず出ていった。
そして、キッチンで準備万端 整えてあったらしい食い物を盆 に乗せて寝室に運んできて、自分はとっとと姿を消した。ぱたんと扉 が閉じて、にゃおんと猫の鳴く声がしたから、猫に戻ったんかもしれへん。
あいつ、そんな隠し芸が。人の姿に変転できたんや。猫やないやないか。しっかり化けて出とるんやないか、トミ子。お前も大概しぶといで。もはや人間やないで。顔は元々そうかもしれへんけど、お前の存在自体も、もはや立派な化けモンや。
せやけど、そんなツッコミ入れてる場合やない。
俺は自分を抱いてるアキちゃんを、やんわり揺 り起こした。強く揺 さぶるつもりやったけど、へろへろすぎて、結果やんわりやってん。
アキちゃんは簡単には起きへんかった。それでも執念ぶかく、ゆさゆさしてると、やがてうっすらと目を開けた。
「どうしたんや、亨。腹減ったんか。俺が寝てても、気にせんと血吸ってええんやで。なんかな、眠いねん……」
貧血なんやろ。アキちゃんは白い顔して、また目を閉じそうやった。
「もう血吸わんでええねん、アキちゃん。俺、元気になったわ」
なんや説得力のないフラフラ声やったけど、俺はアキちゃんを安心させようと思って、できるかぎり元気そうに、そう言った。それにアキちゃんは、うっすら笑った。
「そうか、よかったな」
むっちゃ影薄いで、アキちゃん。その力ない微笑に、俺は猛烈 に焦 ってきた。
死なんといてくれ、アキちゃん。死にそうやで。どう見ても死臭キャラやで、今のアキちゃんは。そんなんあかん。死んでる場合やないで。
「重湯 あるし飲み。なんか食べへんとあかんわ。水も飲んでないんか。あかんでアキちゃん、人間なんやから」
「お前が離してくれへんかったんや……」
お前それは、めちゃめちゃ励 んでもうた日の朝かみたいな事を、アキちゃんは弱々しく言った。
「起きられるか。俺が抱 えてやろか」
心配して俺が訊 くと、アキちゃんは苦笑した。
「なんで俺がお前に看病されなあかんねん。逆やろ」
せやけど客観的に見て、アキちゃんのほうが介抱 される側やでっていうような様子で、アキちゃんは自力で起きた。
「なんで裸なん、アキちゃん」
「お前が脱げって言うたんや。寒いから、裸で抱いてほしいって」
そんなこと頼 んだんか、俺は。
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