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7-5 トオル
アキちゃんに自分を押し倒させて、俺はキスしながら、アキちゃんの体を嬲 った。
嫌やとは言わへんかったけど、アキちゃんは乗り気では全然なかった。そうやけど、俺にはたぶん、人を誘惑 する力がある。俺が欲しいて、みんな思うらしい。
俺の指に口説かれて、アキちゃんはかすかに興奮した息遣 いやった。キスやめんといてて頼んだら、ちゃんとキスしてくれた。
「無理やで、亨。今はやめたほうがええよ。お前も弱ってるんやし、無理やで……」
無理やって、拒 む口調やけど、アキちゃんは少し、欲情してきてた。その手応えが嬉しい気がして、俺はもっと執拗 にアキちゃんを責めた。
「弱ってるから、したいねん。俺のこと好きなんやったら抱いて」
「めちゃくちゃ言うな、お前はほんまに……我 が儘 な奴や」
苦笑して言い、アキちゃんは俺の手加減のない愛撫 に呻 いた。
「入れるだけでええねん、アキちゃん。どうしても無理やったら、別にいかへんでええねん。交わって、抱き合いたいんや」
それが出来るようになるまで、もう一押しやと思った。
血を吸えば腹は満ちるけど、それだけやと満たされない飢 えが、俺にはある気がする。
他のやつなら別にいい。血吸えれば美味 いし満足する。足舐 めてご奉仕してくれたら、別にそれでええんや。俺が気持ちよければ、それでよかってん。
でも俺は、藤堂 さんが本気でちょっと好きやったで。アキちゃんに会う前やしな。
誰か本気で俺を愛してくれるやつはおらへんのかって、寂 しかった。
みんな欲から俺を抱きたいだけで、本気やない。俺に操 られてるだけ。打算 があるだけ。人より運が欲しいだけ。
そういう欲に付け込んで、人を下僕 に仕立てるんが、俺の性分 らしいから、そこに文句言うのはおかしいんやけど。
なんで藤堂さんは俺を、抱いてくれへんのやろ。愛してるってめちゃくちゃ突いて欲しい。なのになんでこの人は病気なんやろ。俺を抱きたいって思うこともあるけど、体がついていかへんのやって。
そんな情けない下僕 を、俺は憎んでた。俺は舐 めると御利益 のあるご神体か。実際そうかもしれへんけどな、俺にも心はあるんやで。俺も寂 しいんやないかって、誰も心配してくれへんのか。
するわけないわな。俺に踏 みにじられて。それでも欲しいご主人様で。有り難みはあっても、他人やねんもんな。
他人というか、お前はしょせん化けモンやろていう、そういう事やな。みんな人間の家族がいて、そっちのほうがええんや。
藤堂さんにとっては、俺は生命維持装置。よく効く薬で、その効き目に味しめて、ハマってただけ。
どうでもええねん、ほんまのところは。俺やのうても、同じ効き目の薬があれば。俺でないといやか、って訊 ねたら、そうだというやろけど、俺はそれを信用できない。どうせ嘘やって思ってた。
けど、たぶん、今まで悪かったんは、全部俺のほうやったんやろ。お前はどんだけ俺を愛せるんや。何を貢 げるんや。血でも肉でも差し出せるかって、ぶんどることばっか考えてて、自分が相手に何かしてやりたいって思ったことなかった。
アキちゃんが初めてや。抱いてほしい、寂 しいて、飢 えてたところに現れて、慣れてなくても激しく貪 ってくれた。それが気持ちよくて、抱かれると安心できて、ずっと傍 にいたかった。
突き詰めるとそれは単に、アキちゃんの血筋の力かもしれへん。物 の怪 をとっつかまえて使役 する、そういう力なんや。
けど、それにとっつかまえられて、俺は幸せやった。なんも悩まずに、アキちゃん好きやって、デレデレしてられた。抱いて欲しいて、そればっかり思って、深く考える余裕もなかった。
恋しててん。月並みやけど。
ご奉仕 させてって、骨抜きにされて、キスしてもらっただけで嬉 しいて震えてきて、そういう気持ちが、胸に熱かったんや。
その熱に、ずっと酔ってた。なんで好きなんか、その理由が、だんだん関係なくなってくる。ただもう、ひたすら好き。そういう自分の感情に、涙出そうになる。
アキちゃんはそれに応えてくれて、照 れながらでも、俺に惚 れさせてくれる。お前が好きやて言うてくれる。
何の力があるわけでもないと信じてた、普通の人の俺を、何の見返りもなくても、愛してくれる。どう見ても人間やない、化けモンみたいな俺でも、平気で抱いて、血まで吸わせてくれる。心配せんでええよって、抱いて撫でてくれる。戦わんでええから、逃げろて命令してくれる。
そこまでしてくれた人、今まで長く彷徨 ったけど、アキちゃんしかおらへんかったわ。
そんなアキちゃんを、俺は貪 りたい。そして、そんなアキちゃんに、貪 られたい。だから抱いて欲しいんや。一体になって、貪 り合いたい。永遠にずっと。
「入れて、アキちゃん。ちょっとでええねん。できるやろ」
アキちゃんの喉元 に顔を埋めて、俺は力一杯甘えた。
「できるやろ、って……しんどいわ、俺は。すでにもう死にそうや」
俺にめちゃめちゃ虐 められて、アキちゃんは困ってた。体力なくて我慢が効かへんのか、アキちゃんはもう震えが来てるらしかった。
「入れて平気なんか、お前は。こんなんで死んだら、アホそのものやで。救いようないで」
「大丈夫や、俺は。アキちゃんに抱いてもろたほうが力が湧くんや。それにアキちゃんも、俺の飲んだら精力つくで。もう一回やろかって思うぐらいかもしれへんで」
耳元で囁 いて教えてやると、アキちゃんは痛恨 の表情をした。
「そういうことか……」
「無理かもしれへん。まだそこまでパワー回復してないかも。でも試してみる価値はあるやろ。もし上手くいったら、気持ちええし、元気は出るしで、一石二鳥やで」
俺はちょっと本気でそう思ってた。
アキちゃんは黙 ってた。それでも抱き合って、俺が誘惑 するのを拒 まへんかった。
冷えてた体が熱いような気がした。裸で抱き合いたくなって、俺が脱いでると、アキちゃんは愛 しそうに俺にキスをした。
アキちゃんも脱がせてやって、そのままキスして愛撫してると、アキちゃんはしばらくして、ものすごく熱い、呻 くような溜め息をついた。
「……なんで勃 つんやろ。ほんまにしんどいのに。俺ってどこまで好きやねん」
自虐的 に言って、アキちゃんは苦しそうな顔で、俺の首筋に唇を寄せた。
「しゃあない、それは俺の力やからな。俺が本気で誘 えば、死にかけ男でもむらむらするんや」
因業 なんやでと、耳に囁 いて教えると、アキちゃんはその息遣いも、ぞくぞく来るらしかった。
「お前は悪い蛇や。俺を死ぬほど心配させて。ちょっと元気出たら、すぐこれか」
感じるところを責められて、アキちゃんは眉間 に皺 やった。つらそう。でも気持ちいいはずや。たまらんて、そういう顔してたけど、それでもアキちゃんはしばらく耐えてた。
けど、それも、ほんのちょっとの間のことや。
「入れたい、亨」
囁 くような小声でねだって、アキちゃんは俺を抱きしめてきた。
俺は震えた。嬉 しくなって。
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