44 / 103
7-6 トオル
「どうやってやろか、アキちゃん。しんどいんやったら、俺が上に乗ったろか」
やる気ないアキちゃんと無理矢理にでもやりたい時には、俺はいっつもそうしてた。跨 って犯 してでもアキちゃんとやりたい。そういう切ない時が時々あってん。
「そんなんせんでええねん。疲れるやろ」
説教臭く渋々 言って、アキちゃんは俺に、背を向けさせた。横たわった背に、アキちゃんが体を合わせた。触れる肌がもう熱い。それに俺は、うっとり来てた。気持ちいい。
俺の首筋にキスしながら、アキちゃんは俺の体を開かせた。切なくなってきて、俺は喘 いだ。早う、ひとつになりたい。
「アキちゃん、好きや。もう入れて」
俺は誘惑したけど、アキちゃんは耐えた。痛い目みせたくない言うて。
やっと入れてもらえた頃には、俺もじっとり汗かいてた。愛されてる気がして、体に細かい震えが走った。アキちゃんが俺の手を握 っててくれた。
「平気か、亨。苦しいことないか」
「苦しい。気持ちよすぎて……」
ほんまに苦しかった。愛し合うのって、体力要るんやて、その時初めて知ったで。早く元気になりたい。
「やめとくか」
「やめんといて」
身を退 こうとするアキちゃんの手を強く握 って、俺は引き留 めた。
「突いて、アキちゃん。俺のこと、愛してくれ」
激しくやってほしい。俺がそう頼んでも、アキちゃんはしばらく迷ってた。きっと俺を、心配してくれてたんやろ。
アキちゃんは優しい。俺を抱くとき、そんな心配してくれる奴はおらへんかった。みんな欲に目がくらんでて、独りよがりに貪る奴ばっかりやったで。
それが嫌やて、ずっと思ってたのに、アキちゃんにはそれを、やってほしかった。お前が欲しいてたまらんて、むちゃくちゃ激しく愛してほしい。
アキちゃんが、無事でよかった。あいつに連れていかれなくて、ほんまによかった。
首をそらせて、キスを求めると、アキちゃんはキスしてくれた。身を悶 えさせて、行為を求めると、アキちゃんは迷いながらでも、ちゃんと抱いてくれた。
アキちゃんが甘く呻 く声を、俺は耳元で聞いた。それは何より感じる愛撫やった。はあはあ喉 が喘 いで、焼けるみたいに痛んだけど、俺はそれを隠し通した。つらいて言うたら、アキちゃん止めてしまうやろ。
「あかん……俺、弱いみたいやわ。良すぎて、もう我慢でけへん」
それが恥 かしいみたいに、アキちゃんはつらそうに俺に頼んだ。自分だけいくけどいいかって。
「我慢せなあかんで、アキちゃん。俺もいかせて……」
いつもみたいに。
アキちゃんはそう言う俺に頷いたけど、朦朧 としかけてた。愉悦 が極 まってきてて、苦しいみたいやった。日頃は声を堪 えるアキちゃんが、堪 えきれへんのか、切なそうな息を漏 らしてた。
「あかん、もう、ほんまに無理や。ごめん」
アキちゃん、あかんでと、俺は囁 いたけど、アキちゃんはもう聞こえてへんかった。あかんでと、自分の口の中でだけ繰 り返したけど、アキちゃんに激しくやられて、俺も朦朧 としてきてた。
アキちゃんの夢中の腰使いに、うっとり来たんや。実はちょっと、気が遠くなりかけてたかもしれへんけど、激しく貪 られて、それはそれで幸せやった。アキちゃんが喘 ぐのが、嘘みたいで、いつもこなんふうに、夢中で抱いてくれればええのにって思った。
「ああ……もういく。亨、愛してる、死なんといてくれ」
譫言 みたいに喘 いで、アキちゃんは感極まった。
ああ、あかん、ひとりでいったら、俺はまだやでって、突き上げられてのけぞりながら、俺は泣きそうやった。気持ちよくて。アキちゃんが俺の中で震えてるのを、うっとり酔って感じてた。ものすごく気持ちええんやって分かるような、アキちゃんの声を聞きながら。
でもこれで、また終わってもうた。もう一回て頼 んだら、アキちゃんは無理やって拒 むやろ。いくらなんでも、もう終わり。
それが嫌やて、ぼんやり切なくなってた俺の首筋に、まだ震え続けたまま、アキちゃんがキスしてきた。
「あかん、あかんわ、我慢でけへん……」
呻 くみたいな陶酔 した声で、アキちゃんが言った。なんのことやろって、俺は振り返ろうとした。
そして首筋に鋭い痛みを感じて、俺は悲鳴をあげた。痛かったからもある。でもそれ以上に、ものすごい快感やってん。アキちゃんが、俺の首に噛 みついてた。
噛 んでる。なんで噛 んでんのって、俺は震えながら思った。
アキちゃんが俺の、血を吸ってる。そうとしか思えへんかった。
「あぁ……やめて」
俺は啜 り泣いて喘 いだ。正直こん時の声は自分でも恥ずかしかったで。よくそんな可愛い声出るわみたいなな。我ながら、ようやるよ。
けど、それくらい、気持ちよかってん。
アキちゃんが、血を吸われるのは案外気持ちいいって言って、全然嫌がらずに吸わせてくれてたけど、それがなんでか、その時わかった。
めちゃくちゃ悦 いんや。汗まみれでイくのとは、またちょっと違うけど、とにかく腰抜けるような快感なんやで。しかも俺はちょっと、感じやすいほうらしい。
俺、こんなん初めて。血吸われるなんて、想像もしてへんかった。
「アキちゃん……やめて、俺、もう、死んでまうよ」
ほんまに死ぬかもしれへんて、俺は思った。それくらい気持ちよかったし、ヤバかった。だって、こっちはやっと回復したところなんやで。献血 するほど元気やないで。
アキちゃんはその声で我にかえったんか、慌 てたみたいに、俺の首に突き立ててた牙 を抜いた。そして口元を覆 って、ベッドにくずおれてた。
気持ちよかったんやろ。血の味も、すごく甘くて、うっとりしてたんやろ。分かるよ、それ。俺もアキちゃんの血吸うと、恥ずかしいくらい陶酔 してる。
「ごめん、俺、今お前に何したんや……」
口を覆 ってた掌 を見て、そこに血がついてるのに気づいたアキちゃんは、まだ小さく震えてた。
ともだちにシェアしよう!