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7-6 トオル

「どうやってやろか、アキちゃん。しんどいんやったら、俺が上に乗ったろか」  やる気ないアキちゃんと無理矢理にでもやりたい時には、俺はいっつもそうしてた。(またが)って(おか)してでもアキちゃんとやりたい。そういう切ない時が時々あってん。 「そんなんせんでええねん。疲れるやろ」  説教臭く渋々(しぶしぶ)言って、アキちゃんは俺に、背を向けさせた。横たわった背に、アキちゃんが体を合わせた。触れる肌がもう熱い。それに俺は、うっとり来てた。気持ちいい。  俺の首筋にキスしながら、アキちゃんは俺の体を開かせた。切なくなってきて、俺は(あえ)いだ。早う、ひとつになりたい。 「アキちゃん、好きや。もう入れて」  俺は誘惑したけど、アキちゃんは耐えた。痛い目みせたくない言うて。  やっと入れてもらえた頃には、俺もじっとり汗かいてた。愛されてる気がして、体に細かい震えが走った。アキちゃんが俺の手を(にぎ)っててくれた。 「平気か、亨。苦しいことないか」 「苦しい。気持ちよすぎて……」  ほんまに苦しかった。愛し合うのって、体力要るんやて、その時初めて知ったで。早く元気になりたい。 「やめとくか」 「やめんといて」  身を退()こうとするアキちゃんの手を強く(にぎ)って、俺は引き()めた。 「突いて、アキちゃん。俺のこと、愛してくれ」  激しくやってほしい。俺がそう頼んでも、アキちゃんはしばらく迷ってた。きっと俺を、心配してくれてたんやろ。  アキちゃんは優しい。俺を抱くとき、そんな心配してくれる奴はおらへんかった。みんな欲に目がくらんでて、独りよがりに貪る奴ばっかりやったで。  それが嫌やて、ずっと思ってたのに、アキちゃんにはそれを、やってほしかった。お前が欲しいてたまらんて、むちゃくちゃ激しく愛してほしい。  アキちゃんが、無事でよかった。あいつに連れていかれなくて、ほんまによかった。  首をそらせて、キスを求めると、アキちゃんはキスしてくれた。身を(もだ)えさせて、行為を求めると、アキちゃんは迷いながらでも、ちゃんと抱いてくれた。  アキちゃんが甘く(うめ)く声を、俺は耳元で聞いた。それは何より感じる愛撫やった。はあはあ(のど)(あえ)いで、焼けるみたいに痛んだけど、俺はそれを隠し通した。つらいて言うたら、アキちゃん止めてしまうやろ。 「あかん……俺、弱いみたいやわ。良すぎて、もう我慢でけへん」  それが(はず)かしいみたいに、アキちゃんはつらそうに俺に頼んだ。自分だけいくけどいいかって。 「我慢せなあかんで、アキちゃん。俺もいかせて……」  いつもみたいに。  アキちゃんはそう言う俺に頷いたけど、朦朧(もうろう)としかけてた。愉悦(ゆえつ)(きわ)まってきてて、苦しいみたいやった。日頃は声を(こら)えるアキちゃんが、(こら)えきれへんのか、切なそうな息を()らしてた。 「あかん、もう、ほんまに無理や。ごめん」  アキちゃん、あかんでと、俺は(ささや)いたけど、アキちゃんはもう聞こえてへんかった。あかんでと、自分の口の中でだけ()り返したけど、アキちゃんに激しくやられて、俺も朦朧(もうろう)としてきてた。  アキちゃんの夢中の腰使いに、うっとり来たんや。実はちょっと、気が遠くなりかけてたかもしれへんけど、激しく(むさぼ)られて、それはそれで幸せやった。アキちゃんが(あえ)ぐのが、嘘みたいで、いつもこなんふうに、夢中で抱いてくれればええのにって思った。 「ああ……もういく。亨、愛してる、死なんといてくれ」  譫言(うわ)みたいに(あえ)いで、アキちゃんは感極まった。  ああ、あかん、ひとりでいったら、俺はまだやでって、突き上げられてのけぞりながら、俺は泣きそうやった。気持ちよくて。アキちゃんが俺の中で震えてるのを、うっとり酔って感じてた。ものすごく気持ちええんやって分かるような、アキちゃんの声を聞きながら。  でもこれで、また終わってもうた。もう一回て(たの)んだら、アキちゃんは無理やって(こば)むやろ。いくらなんでも、もう終わり。  それが嫌やて、ぼんやり切なくなってた俺の首筋に、まだ震え続けたまま、アキちゃんがキスしてきた。 「あかん、あかんわ、我慢でけへん……」  (うめ)くみたいな陶酔(とうすい)した声で、アキちゃんが言った。なんのことやろって、俺は振り返ろうとした。  そして首筋に鋭い痛みを感じて、俺は悲鳴をあげた。痛かったからもある。でもそれ以上に、ものすごい快感やってん。アキちゃんが、俺の首に()みついてた。  ()んでる。なんで()んでんのって、俺は震えながら思った。  アキちゃんが俺の、血を吸ってる。そうとしか思えへんかった。 「あぁ……やめて」  俺は(すす)り泣いて(あえ)いだ。正直こん時の声は自分でも恥ずかしかったで。よくそんな可愛い声出るわみたいなな。我ながら、ようやるよ。  けど、それくらい、気持ちよかってん。  アキちゃんが、血を吸われるのは案外気持ちいいって言って、全然嫌がらずに吸わせてくれてたけど、それがなんでか、その時わかった。  めちゃくちゃ()いんや。汗まみれでイくのとは、またちょっと違うけど、とにかく腰抜けるような快感なんやで。しかも俺はちょっと、感じやすいほうらしい。  俺、こんなん初めて。血吸われるなんて、想像もしてへんかった。 「アキちゃん……やめて、俺、もう、死んでまうよ」  ほんまに死ぬかもしれへんて、俺は思った。それくらい気持ちよかったし、ヤバかった。だって、こっちはやっと回復したところなんやで。献血(けんけつ)するほど元気やないで。  アキちゃんはその声で我にかえったんか、(あわ)てたみたいに、俺の首に突き立ててた(きば)を抜いた。そして口元を(おお)って、ベッドにくずおれてた。  気持ちよかったんやろ。血の味も、すごく甘くて、うっとりしてたんやろ。分かるよ、それ。俺もアキちゃんの血吸うと、恥ずかしいくらい陶酔(とうすい)してる。 「ごめん、俺、今お前に何したんや……」  口を(おお)ってた(てのひら)を見て、そこに血がついてるのに気づいたアキちゃんは、まだ小さく震えてた。

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