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三都幻妖夜話(2)大阪編 9-6 トオル | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(2)大阪編
9-6 トオル
作者:
椎堂かおる
ビューワー設定
60 / 103
9-6 トオル
照
(
て
)
れていいんか、俺はわからんようになって、
難
(
むずか
)
しい顔になった。 自分のこと
褒
(
ほ
)
めてもらってるんやろけどな、なんか他人事なんやな。 「いいやん、アキちゃん、美しいモン好きなんやろ」 「好きやけど、なんかもう、日常生活の
枠
(
わく
)
を
越
(
こ
)
えてる。お前くらいで限界や」 つまり俺は、女版よりも一段落ちるということか。男やからか。それが身近な感じなんか。 なんやと、こら。男の姿でもな、俺は人がぼんやりするくらい美しいはずや。実際ずっとそうやった。
神々
(
こうごう
)
しいくらいの
美貌
(
びぼう
)
なんやで。お前もそれが好きやったんやろ。違うんか。 それなのに、ひどい。見慣れるやなんて。 見慣れたんやろ。それで、あー、これで身近やみたいなため息ついて、俺を抱き寄せてくるんやろ。 アキちゃんは傷がなくなった俺の胸を見て、ああ良かったみたいに、そこに
頬
(
ほほ
)
をすりすりした。すりすりっていうか。
髭
(
ひげ
)
剃
(
そ
)
ってほしい、アキちゃん。くすぐったいから。その
感触
(
かんしょく
)
に、何やモヤモヤするから。 「元気になったんか、亨。血吸ったからか」 俺を抱きしめたまま、アキちゃんは
嬉
(
うれ
)
しそうに
訊
(
たず
)
ねてきた。 俺は
曖昧
(
あいまい
)
な作り笑いをした。 血吸ってません。猫食うたんです。しかもその猫が、まだどっかに引っかかってる。 答えないでいる俺に、まあええかというノリで、アキちゃんはキスしてきた。
項
(
うなじ
)
と背を抱かれて、ぎゅっとされると、気持ちよかった。気持ちええわあ、て、猫も言うてた。 お前、どっか行け。去れ、去るんや、トミ子。 確かにお前は、俺の命の
恩人
(
おんじん
)
や。せやけどアキちゃんのラブラブを半分こせなあかん
義理
(
ぎり
)
はないで。ノゾキや、それは。見たらあかん。成仏してくれ、頼むから。 そう言われてもなあ、て、トミ子は困ってた。しばらく居るしかないみたいえ。 まあまあ居心地ええからかまへんけど、いつまで
居
(
お
)
らなあかんのやろ、って、ぺろぺろ前足
舐
(
な
)
めながら、居座る気配でトミ子は言うてた。 アキちゃんにはそれが聞こえてないみたいやった。 トミ子は俺の中にいるだけで、外からは姿は見えへんし、声も聞こえないみたいな。あたかも俺の
妄想
(
もうそう
)
のお友達。 ほんまにそうやったら平気やけど、トミ子は実在してるで。しかも俺が感じるもんはトミ子も感じるらしい。つまり、つまりそういうこと。アキちゃん気づいてないけど、基本3Pってことやで。冗談やないで。 アキちゃんは俺が無事そうなのが、よっぽど
嬉
(
うれ
)
しかったんか、傷ひとつなく元に戻った俺の体を、なでなでしてた。 それがまた何か気持ちいいから困るんや。俺、感じやすいねん。人より感覚が
敏感
(
びんかん
)
なんや。 それで何か、心持ち
喘
(
あえ
)
ぎ気味になってきて、これはヤバいと俺は
焦
(
あせ
)
った。 このまま基本3Pコースやったらどないしよ。トミ子さえおらんかったら、元気になった記念に一発やっといてもええかなあ、えへへ、みたいな話やけどや。今はヤバい。嫌やもん、俺。 「あっ、や、やめて、アキちゃん。俺、まだ、しんどいから」 思わず
拒
(
こば
)
むと、アキちゃんは
照
(
て
)
れた顔をした。そして、俺を離して、ごめんなって言った。 いや、ごめんな事ないねん。ほんまは抱いてて欲しいんや。
畜生
(
ちくしょう
)
。なんでこんなことに。 おのれトミ子、化け猫め。食われてもタダでは消えへんていうことなんか。お前は俺の中から出られへんのか。永遠にこのままってことないよな。 俺が
脂汗
(
あぶらあせ
)
かいてトミ子に
訊
(
き
)
くと、猫は出られるえ、って、けろっと言った。 そして、ドロンとアキちゃんの背後に現れた。 俺はそれを見て、ぱくぱくしてた。黒猫が、ていうか、バニーガールの猫版みたいな、バニー服着たネコミミ女が、長い
尻尾
(
しっぽ
)
ゆらゆらさせながら、アキちゃんの背後に横になってた。 その顔がな、あのブスやないねん。俺の顔やねん。それにどこか姫カットも混ざってる。いろいろ混ざってるらしいねん。 アキちゃん、これ、見えてへんよな。まさか見えてないよな、って、俺はぱくぱく通りこして、あわあわしてきた。 「どうしたんや、亨。アホみたいな顔して」
優
(
やさ
)
しく笑いながら、アキちゃんは鬼みたいなことを言うた。 「う、う、うしろ……見てみて」 俺は怖かったけど、意を決して指さしてみた。 アキちゃんは、なんやろっていう顔で、後ろを振り返って、そしてまた何事もなかったように、俺に向き直った。 「何や。何があるんや」 にこにこしたまま、アキちゃんは俺に
訊
(
たず
)
ねた。 見えてへんのや。よかった。ひとまず。良かった……っていうか、何なんやろ、このネコミミ女は。
煩悩
(
ぼんのう
)
の
塊
(
かたまり
)
みたいな、この姿は。 俺もこれに、変身できるんやないかって、そういう気がした。もしかしたら黒猫にもなれるんかもしれへん。 俺って、もしかして、食うたやつの姿とか要素を、取り込んで生きてきたんやないか。今の姿は、そうやって食らってきたもんの中からチョイスした自己ベストで、まだまだバージョンアップするわよみたいな感じなんとちゃうか。 アキちゃん、姫カットみたいな和風が好きやし、もしかして、これもありかって、俺は汗かきながら、横たわるネコミミ女を見た。 猫部分、要るんかって謎やけど、アキちゃん猫も好きやし、案外、好きなんか、これ。萌えるんか。和風にしましたみたいな俺顔の、さらさら姫カットの、ネコミミ女。 えええ。それは、また一段と世界が拡がりすぎる。小出しにせなあかんよ、小出しに。先行き長いんやから。 「お邪魔やったら、うちはヨソへ行っとくけど、そう遠くには行かれへんえ」 Eカップぐらいが
眩
(
まぶ
)
しい、
太腿
(
ふともも
)
剥
(
む
)
き出しのえろえろタキシードの女が、京都弁でそう言った。 お前は、トミ子なんか。トミ子・改か。変わりすぎやろ。和装のブスのほうが耐えやすかった。 けど、俺が過去に食らってきたはずの、他の連中は、どこへ行ったんやろ。もしかして、ゆっくり溶け合って、ひとりになってもうたんかな。なんか、そんなような気がする。 食いたいと思って食うたら、その相手はいなくなってしまう。せやから、いくら好きでも、アキちゃん食うたらあかんねん。アキちゃん、いなくなってしまう。そう思って
我慢
(
がまん
)
してきたんやった。 て、いうことは、トミ子もそのうち消えてまうんやろ。それには、どれくらいかかるんやろ。 「心配せんでも、うちはしばらく居るわ。命が九個もあるから」 俺に似た美声でそう教え、ゆらゆら尻尾振りながら、ちゃんと二本足で歩いて、トミ子は部屋を横切っていった。 痛いわあていう顔で、それを見送る俺を、アキちゃんは不思議そうに見てた。 「まあ、せいぜい、ごゆっくりお楽しみやす。前と何が違うのん。うちが見てようが、なんも気にせんと、いちゃいちゃいちゃいちゃしてたやないの。見た目がちょっと変わっただけやろ、ブサイクな猫やったんが、自分そっくりの女に」 そうやけど、それは大きな違いやで、トミ子。 だって。もし俺がアキちゃんと抱き合うて、気持ちよくなってたら、お前はどういう状態になってんの。 想像するだに鼻血ブーやわ。想像させんといて、俺に。かといって目の前で見せるのもやめといて。ナルシズムの極致やわ。なんか、それ、エロすぎへんか。いくら俺でも、ヤバないか。 「どしたんや、青い顔して。まだ、寝といたほうがええんやないか」 アキちゃんは心配そうに俺の顔を見た。 「平気、たぶん平気……それはそれで」 「それはそれで、って、何が」 「俺、元気になった。復活したで、アキちゃん」 もう気にしてもしゃあない。俺はぽかんとしてるアキちゃんにがしっと抱きついた。
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椎堂かおる
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