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三都幻妖夜話(2)大阪編 11-9 トオル | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(2)大阪編
11-9 トオル
作者:
椎堂かおる
ビューワー設定
83 / 103
11-9 トオル
開襟
(
かいきん
)
シャツに、ネクタイも
外
(
はず
)
してもうてる。暑うてたまらんみたいな、太ったおっちゃんやった。そして顔は
下駄
(
げた
)
みたいやねん。 「
後藤
(
ごとう
)
です、どうも。
守屋
(
もりや
)
から聞かされとります」
本間
(
ほんま
)
さんは、京都の
拝
(
おが
)
み
屋
(
や
)
さんやそうで、と、
下駄
(
げた
)
はずばっと言った。 ほんまにもう、
拝
(
おが
)
んで解決するんやったら、いくらでも
拝
(
おが
)
みたい気分ですわ。この際、よろしゅう
頼
(
たの
)
みますって、
後藤
(
ごとう
)
のおっちゃんはクサクサした顔で
頼
(
たの
)
んできた。 コロンボ
守屋
(
もりや
)
とは、中学時代の親友らしい。
下駄
(
げた
)
はおとんの仕事の都合で、高校入る
頃
(
ころ
)
に大阪に引っ越したんやって。 その後も二人には付き合いがあり、アホかと思うが
文通
(
ぶんつう
)
をしていた。それでお
互
(
たが
)
い、将来は刑事にと夢を語り合って、現在に
至
(
いた
)
る。そんな仲良しオヤジどもやねん。
気色悪
(
きしょくわる
)
いやろ。 「
着替
(
きが
)
えたりしはるんですか」 どう見ても街の子なアキちゃんと俺の
格好
(
かっこう
)
を見て、
後藤
(
ごとう
)
のおっちゃんはそう
訊
(
き
)
いてきた。 「
着替
(
きが
)
えなあかんのですか?」 何に、っていう顔で、アキちゃんは
訊
(
き
)
き返してた。 「
拝
(
おが
)
み
屋
(
や
)
さんなんですよね。ええと。先生は。そんな
普段着
(
ふだんぎ
)
で行きはるんですか。なんや、それっぽい
格好
(
かっこう
)
の人が来はるんやと思うてましたわ」 「……服なんか、どうでもええんです」 アキちゃんは、なんかショックだったみたいに、自分をじろじろ見てる
下駄顔
(
げたがお
)
のおっちゃんと
睨
(
にら
)
みあってた。 確かにな。
説得力
(
せっとくりょく
)
ないよな。 ちょっと遊びに来ましたみたいな、普通の服で、さあやろかって言われても、一般人にはピンと
来
(
け
)
えへんよな。せめて着物を着てくるとかやな、そんなんあっても良かったんちゃうか。 でももう、ええか。
面倒
(
めんどう
)
くさいし。アホみたいやん、いちいち
着替
(
きが
)
えるなんて。 ええねんべつに
普段着
(
ふだんぎ
)
で。気にすることあらへん。アキちゃん、何着てても
男前
(
おとこまえ
)
やから。 せやけど、おとんの軍服姿、
格好
(
かっこう
)
良かったなあ、ハアハアなんて、俺が思ってぼけっとしてると、アキちゃんは車の後部座席から、
抜
(
ぬ
)
き
身
(
み
)
の
水煙
(
すいえん
)
を連れてきた。
鞘
(
さや
)
は置いていくつもりらしい。
水煙
(
すいえん
)
は気合い十分なのか、すでにむらむらと、名前の由来になってる
水煙
(
みずけむり
)
を
発
(
はっ
)
して、
濡
(
ぬ
)
れたような光りかたやった。 「ほな行ってきますけど、何日
経
(
た
)
っても戻らんようでしたら、うちの実家に連絡してもらうよう、
守屋
(
もりや
)
さんに伝えてください」 アキちゃんはあっさりそれだけ
挨拶
(
あいさつ
)
して、
下駄顔
(
げたがお
)
の刑事に
会釈
(
えしゃく
)
をすると、行くでといって、俺の手を引いた。
後藤
(
ごとう
)
刑事は、なんやろこいつらという目で俺を見たけど、俺はただ、にやにやしてただけやった。 ええやろ。ラブラブやねん。はぐれたら
厄介
(
やっかい
)
やからな、手
繋
(
つな
)
いでいこうということやねん。
水煙
(
すいえん
)
は、ちりちりと
鍔鳴
(
つばな
)
りしてた。なんでかトミ子まで、とぼとぼ歩いてついてきた。 安全なとこに待たせてやりたいけど、トミ子は俺と
繋
(
つな
)
がってるのやし、
一緒
(
いっしょ
)
に来るしかあらへん。 「元の手はずでええんやな」 アキちゃんは俺の手をぐいぐい引いて歩きながら言った。 「俺がやる。とどめは
刺
(
さ
)
ささへん」
渋々
(
しぶしぶ
)
でもなく、俺は答えた。アキちゃんはそんな俺の方を、ちらりと
振
(
ふ
)
り返った。 「それで
納得
(
なっとく
)
いってるんやろうな。俺はお前に、命令する気はないんや。言いたいことあったら、今のうちに言え」
厳
(
きび
)
しい目で言うアキちゃんは、いつもに
増
(
ま
)
して
格好
(
かっこう
)
良かった。それで俺は、歩きながらぼけっと見とれて見てた。 「言いたいこと、ある」 「なんや。あるならさっさと言え」
急
(
せ
)
かされたんで、俺はさっさと言うた。 「アキちゃん、好きや。めちゃめちゃ愛してる」 「……アホか、お前は。ほんまにアホか」 痛いみたいな顔で、何か
振
(
ふ
)
り払うように首
振
(
ふ
)
って、アキちゃんは
喚
(
わめ
)
きながら歩いてた。 「愛してないんか、アキちゃんは俺のこと」 「愛してないことない」 怒ってるようにしか聞こえん声で、アキちゃんは
抑
(
おさ
)
えた
怒鳴
(
どな
)
り声。なに怒ってんのや。 「愛してんのやろ。ほな、そう言ってよ」 「愛してる!」
怒声
(
どせい
)
やんか、それ。なに怒ってんの。もっと
優
(
やさ
)
しく言うてほしいわ。 せやけどな、アキちゃんはどうも、
照
(
て
)
れてたらしいねん。
恥
(
は
)
ずかしい度がMAX
越
(
こ
)
えると、怒りに変換されるらしいねん。
謎
(
なぞ
)
めいた構造やな。 「俺が一位で、二位以下は無しって、約束してくれるか」 俺が最後に
訊
(
たず
)
ねると、アキちゃんは
眉間
(
みけん
)
に
皺
(
しわ
)
寄せた、怒った顔のまま、
振
(
ふ
)
り返った。 「しつこい、お前は。約束する。俺が愛してるのは、お前だけや」 めっちゃ怒った顔で、アキちゃんはそう約束した。それでも、ぎゅっと手を
握
(
にぎ
)
ってくれた。その時の強さを、俺はずっと一生忘れへん。 約束するって言うたかてな、アキちゃんは結局、気の多いやつやねん。絵
描
(
か
)
きやし、
面食
(
めんく
)
いやから、あれも
綺麗
(
きれい
)
、これも
綺麗
(
きれい
)
で、
目移
(
めうつ
)
りばっかりしてる。それはもう、何年生きても変わらへん、アキちゃんの
性癖
(
せいへき
)
やねん。 それでも、約束してくれた。それはアキちゃんの意志やねん。ずっと俺だけを見てるって、そういう決意表明や。 もしも目を
逸
(
そ
)
らしそうになったら、俺はアキちゃんをどついていいし、場合によっては食うてまうぞって、そういう話やねん。 それでもええよ、そんなことには、ならへんようにするって、アキちゃんなりに努力することにしたらしい。 とりあえずは、それで満足しとこ。それ以上望んだら、
罰
(
ばち
)
当たるんちゃうかって、その時は思ったんや。 俺も
初心
(
うぶ
)
やった。俺のこと、アキちゃんが誰よりも愛してくれてる。その事実だけで、満足できてた。 幸せやってん。しょうもないけど、日頃
口下手
(
くちべた
)
なアキちゃんが、愛してるのはお前だけって、ちゃんと口に出して言うてくれたし。それでなんや
胸一杯
(
むねいっぱい
)
になってな。一生ついていきますみたいな感動に
包
(
つつ
)
まれてたんや。 けど、恋なんて、そんなもんやろ。
妄想
(
もうそう
)
やねん。信じる信じないの世界や。神や妖怪とおんなじ。 いると思えばいるし、おらんと信じればおらへん。恋もそうやねん、きっと。信じてるうちが花や。
疑
(
うたが
)
い出したらキリない。 アキちゃんは、俺が好き。そうなんやって信じて、それに
頼
(
たよ
)
って生きてれば、アキちゃんは優しい、俺を見捨てたりせえへん。俺が傷ついて泣き
崩
(
くず
)
れるようなことは、もうしない。 もう
懲
(
こ
)
りたんやって、そう信じてやらな、アキちゃんかて傷つく。なんでお前は俺が信じられへんのやって。 どっちが先かわからへんけど、信じなあかんねん。 アキちゃんは、俺が好き。俺を好きなアキちゃんを、俺は好き。 アキちゃん好きやっていう俺を、アキちゃんは好き。 お
互
(
たが
)
いをお
互
(
たが
)
いが、必要としてる。ぐるぐる回る輪みたいなもの。
途切
(
とぎ
)
れ目のないその輪っかに、
途切
(
とぎ
)
れ目を作ったらあかん。 俺とアキちゃんは、永遠を
誓
(
ちか
)
いあった
仲
(
なか
)
なんやで。せやからな、その
途切
(
とぎ
)
れ目のない愛の
連鎖
(
れんさ
)
は、永遠に続く、そんな魔法でないとあかんねん。 わかるかなあ、この
心意気
(
こころいき
)
。わからへんやろうなあ、
生半可
(
なまはんか
)
な恋しかしたことない奴には。 とにかく俺はこの恋に、
命懸
(
いのちか
)
けてた。 本気も本気、大マジですよ。
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椎堂かおる
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