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三都幻妖夜話(2)大阪編 11-13 トオル | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(2)大阪編
11-13 トオル
作者:
椎堂かおる
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11-13 トオル
蛇
(
へび
)
が
悪
(
あく
)
やていうイメージは、基本、キリスト教の
影響
(
えいきょう
)
やで。 エデンの
園
(
その
)
でぼけっと生きてたイブとかいう名の女に、
知恵
(
ちえ
)
の
果実
(
かじつ
)
食うたら
賢
(
かしこ
)
くなるでって親切に教えてやった俺の仲間がおって、
余計
(
よけい
)
なことすんなって、そこの
管理人
(
かんりにん
)
やった神さんに怒られただけや。 せやけど、そのおかげで人間たちは、今や悲しき
失楽園後
(
しつらくえんご
)
で、好きな服着て、
美味
(
うま
)
いモン食って、彼氏とエッチなことしたり、ネイルアートにハマったりできるんやないか。 ビバ
堕落
(
だらく
)
。そういう考え方かてできるやろ。 以上、アキちゃん調べ。最後のは俺の考えやけどな。 人生、気の持ちよう。神も悪魔も、価値観
次第
(
しだい
)
や。 俺が
果
(
は
)
たして
善
(
ぜん
)
なのか、はたまた
悪
(
あく
)
なのか。 それを決めるのは人間様やねん。もっと言うなら、今やそれはアキちゃんしだいや。 アキちゃんが、殺せと命じれば、俺は犬でも赤ん坊でもなんでも殺す。 正義の味方にでも、悪魔にでも、どっちにでもなれる。 結局、俺はもともと、そういうもんやってん。神であり、鬼でもある。 美しくもあり、
醜
(
みにく
)
くもある。それが
異界
(
いかい
)
の力というものやないか。 アキちゃんのお
陰
(
かげ
)
で、俺は今回、人々を
救
(
すく
)
う正義のヒーローで、ええモンの
側
(
がわ
)
。 せやけど、
哀
(
あわ
)
れ
勝呂端希
(
すぐろみずき
)
はアキちゃんに
振
(
ふ
)
られ、
悪
(
わる
)
モンに
堕
(
お
)
ちた。
自業自得
(
じごうじとく
)
や。 けどそれは、
紙一重
(
かみひとえ
)
やった。 もしも何かのちょっとした
手違
(
てちが
)
いで、アキちゃんが俺でなく、犬の方を選んでたら、
裏切
(
うらぎら
)
られた俺は、鬼と
化
(
か
)
してたかもしれへんで。 そして今回、それを
討
(
う
)
つのは
狗神
(
いぬがみ
)
のほうやったかも。 それについては、俺は
自惚
(
うぬぼ
)
れはしない。自分がどんだけ
性悪
(
しょうわる
)
で、わがままな
蛇
(
へび
)
か、よく知ってる。 アキちゃん
抜
(
ぬ
)
きでは、俺はただの鬼。きっとそうなんや。 それを、お前は美しいわって
崇
(
あが
)
め
奉
(
たてまつ
)
ってくれて、大事に愛してくれる、そういう誰かがいてくれたから、俺もあたかも神のごとく
振
(
ふ
)
る
舞
(
ま
)
えるんやないやろか。
可哀想
(
かわいそう
)
にな、
勝呂端希
(
すぐろみずき
)
。お前にもそういう誰かがいたら、良かったのかもしれへんな。
恨
(
うら
)
むんやったら、アキちゃんやのうて、俺を
恨
(
うら
)
め。言われんでも、そうするやろけどな、お前の場合。
変転
(
へんてん
)
を終えた俺を、見上げる銀色の
狗
(
いぬ
)
の目は、
明
(
あき
)
らかな
憎悪
(
ぞうお
)
に燃えていた。どう見ても
悪
(
わる
)
モンやった。 せやけど、ちっぽけな
狗
(
いぬ
)
やったで。
大蛇
(
おろち
)
に化けた俺から見たら。 やろうと思えば、お前をまるごと
一呑
(
ひとの
)
みや。
純白
(
じゅんぱく
)
の
鱗
(
うろこ
)
に守られた俺の体は、ゆったりとトグロを巻いて、持ち上げた頭を
支
(
ささ
)
えてた。 そこから
見下
(
みお
)
ろす俺の金の目を、アキちゃんがじっと見上げてた。
芯
(
しん
)
から
痺
(
しび
)
れたような、
陶酔
(
とうすい
)
した目で。 そのアキちゃんの目が、お前は美しいわて言うてくれてるような気がして、俺は思わず
身悶
(
みもだ
)
えた。 でもそれは、戦いの前の
舞踊
(
ぶよう
)
のようなもんやったかもしれへん。
狗
(
いぬ
)
は俺を一目見て、勝てるわけないと思ったようやった。 勝てるわけない。
力量
(
りきりょう
)
が、あまりにも違うやろ。 それは
一口
(
ひとくち
)
に言うと、まあ、サイズの問題。フルパワー
漲
(
みなぎ
)
る俺は、あいつから見て、見上げるような天を
衝
(
つ
)
くデカさやったんや。 はぁ、と
凍
(
こお
)
り付くような息を、俺は
狗
(
いぬ
)
に
吐
(
は
)
きかけてやった。 それだけでも苦痛やったやろ、向こうは元々、
疫神
(
えきしん
)
たちに
蝕
(
むしば
)
まれ、寒うてたまらず
震
(
ふる
)
えてんのやから。 それでも
狗
(
いぬ
)
は、逃げへんかった。死ぬ気で戦う
覚悟
(
かくご
)
やったんやろ。 どうせ死ぬんや。しっぽ巻いて逃げた負け犬として死ぬよりは、戦って死にたいて、そう思ったんかもしれへん。 それはそれで、敵ながら
天晴
(
あっぱ
)
れな
心意気
(
こころいき
)
。 それでも俺はこの
時点
(
じてん
)
でもまだ、こいつをナメてたんかもしれへん。 とにかく
死闘
(
しとう
)
は始まった。死ぬのは俺やない。
狗
(
いぬ
)
のほうやて決まりきったような戦いがな。 アキちゃんも、ぼけっと見てる
訳
(
わけ
)
にはいかへんかった。 いっぱいおった
犬人間
(
いぬにんげん
)
達がな、あれっ、なんか
美味
(
うま
)
そうな
臭
(
にお
)
いするわって、
今更
(
いまさら
)
ながら気がついたらしい。 アキちゃんて、そうやねん。
外道
(
げどう
)
にモテモテ。 それは
根本的
(
こんぽんてき
)
にはな、なんともいえん
甘露
(
かんろ
)
が
匂
(
にお
)
うからやねん。 アキちゃんが持ってる
覡
(
げき
)
としての血の力のせいや。俺も元々それに
釣
(
つ
)
られた、例のあれ。 血でも肉でも何でもええから、ちょっと食わせろって、すっかり頭おかしなって
襲
(
おそ
)
いかかってくるワンワン達の
群
(
むれ
)
に、アキちゃんぎょっとしてたわ。 俺も正直、ぎょっとしててんけど、そこはそれ、
水煙
(
すいえん
)
先輩がおるから。俺に任せろ、
蛇
(
へび
)
は犬やれって言わはるもんやから、
水煙
(
すいえん
)
兄さんが。
任
(
まか
)
せなしゃあない。 アキちゃんも、なかなかやるなと俺は思った。 それともあれは、けたけた
嬉
(
うれ
)
しそうに笑ってた
水煙
(
すいえん
)
兄さんの
仕業
(
しわざ
)
やったんか。 剣士が剣を使ってたんやのうて、その
逆
(
ぎゃく
)
か。 とにかくアキちゃんの剣さばきは、なかなか
華麗
(
かれい
)
なもんやった。おとんの
危
(
あぶ
)
ない
速習
(
そくしゅう
)
コースが、よっぽどためになったんかな。 これなら平気や、心配いらへんと、俺は安心して犬を追いつめた。 あいつも
善戦
(
ぜんせん
)
したやろ。後で思えば、何千年を
経
(
へ
)
た俺と、
互角
(
ごかく
)
に戦えるような
経験値
(
けいけんち
)
のないやつやった。 それでもあいつに強みがあったんは、あいつが俺の
急所
(
きゅうしょ
)
を
心得
(
こころえ
)
てたからや。 とうとうとっつかまえて、トグロを巻いた
胴体
(
どうたい
)
で
締
(
し
)
めあげてやると、犬は
哀
(
あわ
)
れに
呻
(
うめ
)
いてた。 痛いやろな、それは。すぐには死なせへん。ゆっくり
絞
(
しぼ
)
り上げたるわ。 お前の首を引っこ抜いてやるくらいは、俺には簡単やけど、アキちゃんがとどめは
刺
(
さ
)
すなって言うてるんや。せいぜい、時間かけて弱らせたるから。 俺はそれを、どんな顔で喜んでたんやろ。ちょっと
夢中
(
むちゅう
)
で気づいてへんかった。アキちゃんがワンワン
退治
(
たいじ
)
で
忙
(
いそが
)
しくて
幸
(
さいわ
)
いやったで。 「どうやって、助かったんや、お前は」 それは実際に、
耳元
(
みみもと
)
で
訊
(
き
)
かれたような、はっきり
響
(
ひび
)
く声やった。 ほんまもんの声やないと思う。
狗
(
いぬ
)
はその間も、
獣
(
けもの
)
にふさわしい悲鳴をあげてたからな。それでも
紛
(
まぎ
)
れもなく
勝呂端希
(
すぐろみずき
)
の声やったで。 それで俺はふと、どこかで
正気
(
しょうき
)
に
返
(
かえ
)
った。 「どうって……アキちゃんに助けてもろたんや」 「先輩の、血もらったんか。それで死ぬかもしれへんのに。
蛇
(
へび
)
の仲間にしたんか。先輩は、人間やったのに。もう違うやないか」 俺を
咎
(
とが
)
める
苦悶
(
くもん
)
の声で、
勝呂端希
(
すぐろみずき
)
は静かに言うてた。 「あいつら見たやろ。失敗したら、ああなるんやで。化けモンやないか。今かて、ある意味そうかもしれへん。お前みたいな
蛇
(
へび
)
の、仲間にされたんやで。それでほんまに、先輩は幸せになれるんか」 なれる。俺と永遠に一緒にいてくれるって、アキちゃん約束してくれた。それで幸せみたいやったで。俺のこと、愛してるからな。 そう言う俺の返答は、勝ち
誇
(
ほこ
)
るというよりは、なんとなく
言
(
い
)
い
訳
(
わけ
)
めいてた。 自分が何を
責
(
せ
)
められてるか、なんとなく分かってたんや。 「わがままな
蛇
(
へび
)
や……お前は。親兄弟も死んで、友達もみんな
歳
(
とし
)
食って死ぬのに、自分だけ若いまま永遠に生きていくんやで。お前しかおらん、そういう世界で、生きて行かなあかん。お前を好きなうちはええかもしれへん。でも、それはほんまに、永遠に続くんか」 わからへん。そんなもんは。
試
(
ため
)
してみんことには。 俺は信じてる。アキちゃんを。 俺の答えに、
勝呂
(
すぐろ
)
は笑ってた。 「先輩は、そうやろ。
優
(
やさ
)
しいからな。でもお前はどうやろ。さっさと
飽
(
あ
)
きて、捨てていくんやないか。たった一人で、永遠に生きていかなあかん、
地獄
(
じごく
)
の底に」
藤堂
(
とうどう
)
さん、て、俺はまた
唐突
(
とうとつ
)
に思い出してた。
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椎堂かおる
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