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三都幻妖夜話(2)大阪編 12-3 アキヒコ | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(2)大阪編
12-3 アキヒコ
作者:
椎堂かおる
ビューワー設定
96 / 103
12-3 アキヒコ
由香
(
ゆか
)
ちゃんは、俺と同じひとりっ子やった。
可愛
(
かわい
)
い
可愛
(
かわい
)
いて甘やかされて育って、何でも自分の思うようになるって、何となくそんな自信を持ってる。そんな子やった。 将来ハリウッドで映画のCGやりたいねん、うち才能あるからと、両親を説得し、
留学
(
りゅうがく
)
もさせますよと高校生を口説いてる、うちの大学の学生課の宣伝を
真
(
ま
)
に受けて、希望を持ってやって来た。実際そういうチャンスはあったんや。 彼女は学年でいちばんイケてる
対抗馬
(
たいこうば
)
やという
勝呂
(
すぐろ
)
に近づき、その次は俺に
惚
(
ほ
)
れた。
軟派
(
なんぱ
)
な子やってんな。
支離滅裂
(
しりめつれつ
)
やねん。
留学
(
りゅうがく
)
目指して
頑張
(
がんば
)
る言うてるくせに、遊び回って学校休む。
勝呂
(
すぐろ
)
に、うちら親友やんねと親しげにしながら、あいつの気持ちを
踏
(
ふ
)
みにじる。そんな普通の女の子やってん。 わがままやけど、女なんて、普通みんなそうやろ。
由香
(
ゆか
)
ちゃん、俺は嫌いやなかった。特に好きでもなかったけど、明るくて、元気な子やった。
調子
(
ちょうし
)
が良くて、けらけら笑って、べたべた甘えて。妹みたいな子やったわ。 そういうの、きっと見抜かれてたんやろ。
本間
(
ほんま
)
先輩て、うちのお兄ちゃんみたいて、いっつも
口説
(
くど
)
かれてたし。 うちら、ほんまの
兄妹
(
きょうだい
)
みたい、明日から
本間
(
ほんま
)
由香
(
ゆか
)
になろうかな、そうや、結婚しましょか、今。奥さんでもええわ。ふたりでハリウッド行きましょお、って、
由香
(
ゆか
)
ちゃんは冗談なんかアホなんか分からんようなことを、平気でべらべら話してた。
勝呂
(
すぐろ
)
もいる
狭
(
せま
)
い作業室で、俺とべたべた
腕
(
うで
)
組んできながら。 殺されても、しゃあなかったんかもしれない。
猛犬
(
もうけん
)
注意の
檻
(
おり
)
の中で、
無邪気
(
むじゃき
)
にはしゃいでたんやから。
勝呂
(
すぐろ
)
はずっと
由香
(
ゆか
)
ちゃんに、内心キレてたんやないか。 あいつは俺の手
触
(
さわ
)
っただけで、
気弱
(
きよわ
)
そうに
震
(
ふる
)
えてた。 そんなやつの目で見て、俺の顔見ればべたべた抱きつこうとする、そんな気ままなわがまま女や、アキちゃん好きやて甘え声で
膝
(
ひざ
)
に乗ってくる、
亨
(
とおる
)
みたいなやつが、どんだけムカついたか、なんとなく想像はつく。 でもそれが、殺されても文句の言えんような罪とは
到底
(
とうてい
)
思えへん。
由香
(
ゆか
)
ちゃんは気の毒や。 俺がもっと
鋭
(
するど
)
く気がついて、気をつけてやれば、死んだりしなかった。きっとそうなんや。俺のせいやって、そう思えてきて、
底抜
(
そこぬ
)
けの笑顔で
遺影
(
いえい
)
に写ってる、普段通りの
由香
(
ゆか
)
ちゃんの日焼けした顔を、
正視
(
せいし
)
でけへんかった。 こんな子が親は、
可愛
(
かわい
)
かったやろ。どうせ
留学
(
りゅうがく
)
なんかでけへんて、そう思ってても、好きにさせてやってたんやろ。 女の子やし、幸せな結婚でもして、それで普通に幸せになってくれればって、そんな世界観の
匂
(
にお
)
う家やった。普通の子や。そんな子が俺のせいで死んでもうて、もう、
詫
(
わ
)
びるしかない。 すみませんでした、お
嬢
(
じょう
)
さんを助けられずにと
詫
(
わ
)
びる俺に、人殺しと泣き
叫
(
さけ
)
ぶ母親、どうぞ気にせず、どうか許してやってくださいと頭下げる父親、そんな
地獄絵図
(
じごくえず
)
やったで。 でもそれは、
一連
(
いちれん
)
の
焼香
(
しょうこう
)
ツアーの
皮切
(
かわき
)
りに、通らなあかん
関門
(
かんもん
)
やってん。俺にとっては。
守屋
(
もりや
)
刑事に電話して頼むと、
一連
(
いちれん
)
の事件での被害者のリストをくれた。 ほんまはこんなことできんのですよ、バレたら私も首が飛ぶんやからと、
重々
(
じゅうじゅう
)
念押
(
ねんおし
)
しして、
守屋
(
もりや
)
さんは
出町柳
(
でまちやなぎ
)
の駅の通りすがりに、俺にデータの入ったUSBメモリーをくれた。 大阪の、
下駄
(
げた
)
みたいな顔した
後藤
(
ごとう
)
刑事が、アメ村
封鎖
(
ふうさ
)
解決の礼ということで、特別にくれたモンらしかった。 被害者たちにとって、俺は誰とも知れない赤の他人やった。ほぼ全員が二十歳前後の若い奴で、みんな大阪の人間やった。 友達でもない見ず知らずの他人が、
突然
(
とつぜん
)
家に行って
焼香
(
しょうこう
)
させてくれは非常識。それは分かってたんやけど、それでも行くのは俺のわがままなんやろな。
黙
(
だま
)
って
焼香
(
しょうこう
)
させてくれる親もいた。友達なんやと
誤解
(
ごかい
)
して、
訊
(
き
)
いてへんのに思い出話を
滔々
(
とうとう
)
と語る家族もいた。 俺の顔をテレビで知ってて、好意や敵意を示す人も。鼻先で戸閉めて押し
黙
(
だまる
)
る家。心をえぐるような大阪弁で
怒鳴
(
どな
)
る怖いおっさんもいた。 そういう時思うんやけど、大阪弁というのは、人に
喧嘩
(
けんか
)
を売るときには最高の言語やな。ものすごい、
凄
(
すご
)
みがある。 怒っているんや、俺は悲しいんやというのが、
言葉面
(
ことばづら
)
を
越
(
こ
)
えてストレートに伝わってくる。 そうやって悲しみに
怒
(
いか
)
る家族がいる一方で、うちの馬鹿息子がどうなろうと知らんという、
薄情
(
はくじょう
)
な親もいた。
慰謝料
(
いしゃりょう
)
出るなら話聞くけどと、
貪欲
(
どんよく
)
そうに言われ、俺はその家の死んだ息子が、ほんまに気の毒になった。 世の中の人間はいろいろや。幸せなやつもいれば、不幸なやつもいる。何が普通かわからへん。 俺は普通やなかったけど、たぶんいつも幸せやった。今も幸せや。 そのお幸せな京都の
坊
(
ぼん
)
が、うっかり
描
(
か
)
いた身の
不始末
(
ふしまつ
)
で、こんなに
大勢
(
おおぜい
)
死なせてしもた。俺はその
罪滅
(
つみほろ
)
ぼしに、なにができるんやろって、それからずっと、そのことが、俺の人生の
課題
(
かだい
)
やねん。 アキちゃん
真面目
(
まじめ
)
やなって、
亨
(
とおる
)
は
褒
(
ほ
)
めてんのか馬鹿にしてんのか、はっきりせんような事をコメントしてた。 そんな
悩
(
なや
)
んだような顔されたら、むらむらしてくるやん。スーツ
脱
(
ぬ
)
ぐついでに一発やろかて、
真顔
(
まがお
)
で
誘
(
さそ
)
ってきて、あいつは帰宅するなり俺を抱く。 それを、アホかとも言えず、俺は
黙
(
だま
)
って言うなりになってた。 たぶん、めちゃめちゃ疲れてたんや。 家に戻ってきて、
亨
(
とおる
)
が待ってて、アキちゃんお帰りって、にこにこ言うて、いい
匂
(
にお
)
いのする
柔肌
(
やわはだ
)
で抱いてくれる。それで帰ってきたんやって思える。その単純なことに
癒
(
いや
)
されたかったんやと思う。 スーツもええなあ、って、亨はめちゃめちゃ
萌
(
も
)
えてた。 あいつな。絶対そういう趣味あるねん。
衣装倒錯
(
いしょうとうさく
)
の
気
(
け
)
が。 なんとなく、そんな
気配
(
けはい
)
が時々むんむんするねん。 なんでそうなんや、皆して。おとんはチャイナドレスのおかんに、にっこにこしてて、亨はスーツ
萌
(
も
)
えか。お前やっぱり、おとんの海軍コスプレにも
密
(
ひそ
)
かに
萌
(
も
)
えてたんやろ。 なんでスーツ
萌
(
も
)
えが分からんのやって、亨は
嘆
(
なげ
)
かわしそうに言って、自分もわざわざスーツ着てきた。おかんが
仕立
(
した
)
ててやってたらしい。 なんやそれ、お前、そんな
怪
(
あや
)
しいスーツの男なんかおるか。何者なのか
謎
(
なぞ
)
すぎるって、俺は正直びびってた。 それは亨がな、エロかったからやねん。スーツがやないで、亨のせいやって、絶対に。 あいつには何かそういう、独特の能力みたいなのがあるみたいやねん。人を
誘惑
(
ゆうわく
)
するようなな。 スーツ
萌
(
も
)
えやないねん。そんなん、あるわけないから俺に。あるわけないって。 あるわけないんやって、ほとんど悲鳴。着たばっかりのスーツを
脱
(
ぬ
)
いで、
半裸
(
はんら
)
で
襲
(
おそ
)
いかかってくる亨に
跨
(
まだが
)
られ、めちゃめちゃ燃えた。そんな悲しい
新境地
(
しんきょうち
)
やった。
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椎堂かおる
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