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12-4 アキヒコ
これでアキちゃんも、立派 な変態 の仲間入りやなって、亨 は自分の白シャツの中に俺の手を入れさせながら、嬉 しそうに言ってた。
それが嬉 しいのはお前だけや。次は軍服かなって、やっぱり言うた。お前の芸風 分かってきたわ。
まともな俺を、そんな変な世界に引きずり込まんといてくれ。やめてくれ、それが無理なら小出 しにしてくれ、俺の体が保 たへんから。
しばらく大人しめに生きてたはずやったのに、俺と亨はまた、どっぷり溺 れたようなエロエロ地獄 やった。俺は自分で自分が情 けないほど、それに溺 れた。底無しの沼 にぶくぶく沈むみたいに。
亨 と抱き合ってると、なにか、際限 がない。気持ちよくて、お前が好きやって胸が熱くて、その瞬間、他のことを何もかも忘れてる。
それに癒 されて、亨に縋 り付くみたいに、もう一回、もう一回って、恥ずかしげもなく強請 ってるような自分がいてる。
俺って、もしかして、全然淡泊 なんかじゃなく、実は相当 に淫乱 なんやないかって、またそう思えてきた。
それも亨のせいや。いや、責任転嫁 やのうて、その、血の話。
あいつと血が混ざって、人ならぬ身になってから、俺は気づいた。あいつと抱き合う時の、自分の感度 がな、前よりずっと、その、敏感 みたいやねん。
音やら気配 やらが前より良く分かるようになったんやから、他の感覚も鋭 くなってるんやろな。
あいつがなんで、抱くと気持ちええわって悶 えまくるのか、ちょっと分かってきてもうた。
でも俺は、我慢 する。そんなの恥 ずかしいから。
せやけどな、もともと、これより気持ちよかったら頭おかしなるって思ってたぐらい、悦 かったもんが、さらに品質 アップみたいな話なんやで。実際、頭おかしなる。
早く慣 れないと。亨ににやにやされて、俺は悔 しい。
気持ちええってよがってる亨を、綺麗 やなあって少々の余裕 持って見てる、それぐらいが俺には一番心地 ええねん。
そうでないと困る。アキちゃん最速記録更新 めざしてんのかって、やったあと言われてるようでは。
ちょっと落ち着こう。話、変やで。要点逸 れて喋 りすぎてる。
とにかく、事件はじょじょに過去のものとなっていった。亨は元気で、俺も元気やった。相変 わらずの出町 の家で、それまで以上に仲良く暮 らしてる。
俺はまた、気づくと亨にめろめろやった。それを我慢 せなあかんって、もう、あんまり思えなくなってきた。慣 れたんやろ、それに。
出会ってから、もう半年。そして一緒に死線 をくぐった。
もしもこいつが、あるいは自分が、明日にはもう死んでていない、そんなことは無いけど、もしもそうやったときに、後悔 しないように、言いたいことは、その時言っておかなあかんて、さすがの俺も、そんな気がした。
朝、目が醒 めて、亨が俺の隣 に寝てる。アキちゃん眠いて、熱の籠 もった素肌 で、抱きついてくる。
それを抱きしめて、頭か額 か、とりあえず目についたとこにキスして、起きよう、腹減った、お前が好きやって言う、そうやって始まる毎日や。
今日もそうやった。そんな風にして続く、普通の、それでも普通でない、永遠に終わらない、お幸せな日々。
それに今日は、祭りの日やった。祇園祭 。
京都の夏が、静かに沸点 に達 する、そんな日を待つ、山鉾巡行 に続く、今日が宵々山 。
俺と亨は祇園 にいた。:画商(がしょう)西森 の店に。
俺は自分が夏の課題 を兼 ねて描 いた犬の絵を、競売 に出すことにした。そしてその実務を、西森 さんに依頼した。前に別れ際 、何か描けたら連絡よこせって、言うてもらってたからな。
それにこのオッサンやったら、きっとこの絵の取り扱いは、心得 ててくれる。そんな予感がしたんや。
案 の定 、西森のオッサンは、また学校まで取りに来てくれた絵を見るなり、目醒 ましたら、絵から出てきそうな犬や、檻 にでも入れときましょか、って俺に笑って言うた。
目利 きや。そう思うのは、俺の自惚 れかもしれへんけどな。
競売 の顛末 について、俺は話を聞きに来た。買い手が決まったと、連絡があったんで。
西森さんの事務所は、ギャラリーを兼 ねたこざっぱりした店で、古びた赤い絨毯 が敷 かれ、時代を経 た雰囲気 のある建物やったけど、隙 無く管理された、粋 な内装 やった。
そこに仕立てのいいスーツ着た、恰幅 のいい実年男 の画商西森がおって、その助手 やってるらしい若い事務員がひとり。
男やで。普通女やろ。それは俺の偏見 か。
これまたレトロっぽい趣味の、深い緑色したビロードのソファセットに、きりっと冷えた麦茶をガラスの茶器 で出してきてくれた事務員さんは、和顔 でぱっと見に個性はないけど、涼 しいような穏 やかな美形やった。
ぜったい顔で選んでる。二十五、六くらいに見える年上のその人の、にこにこ顔に会釈 しつつ、俺はそう確信してた。
画商西森、怪 しすぎ。
亨 はえらい、このオッサンに懐 いてて、店に着くなり俺は放置。最近どうやって、オッサンと話してた。
俺はつらい。この店に来るのは。
でも何か時々来てしまう。
いい絵があるし、西森さんには何か、人間的な魅力 がある。人間的なやで。非人間的な魅力 やないと思うんやけどな。
それに俺、じつはファザコンなんとちゃうか。マザコンだけやのうて。
西森さんは何となく、親父キャラやねん。お父さんぽい。
どっしり構 えてて、多少のことでは揺 るがへん、そんな感じ。
むかつくが、この人の店はなんや、入るとほっとする空間なんや。
まあ、それも、商売のうちなんやろ。俺はそう結論してた。俺も商売やねん。絵描きやし。絵を売ってもらいに来てるだけ。この人、その方面も、やり手らしいからな。
前回の、亨の絵の一件で、面識 ができた大崎 先生にも、じゃんじゃん絵を売ってるとかで、今日も狐 の秋尾 さんが店に居合 わせた。
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