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三都幻妖夜話(2)大阪編 12-6 アキヒコ | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(2)大阪編
12-6 アキヒコ
作者:
椎堂かおる
ビューワー設定
99 / 103
12-6 アキヒコ
勝呂
(
すぐろ
)
には本当に、親がいて、家があったんか、俺はどうしても気になって、
焼香
(
しょうこう
)
ツアーの
終幕
(
しゅうまく
)
に、それを確かめに行った。 行く必要もあった。あいつが自宅のパソコンに残してたという、例のCGのデータを、
抹消
(
デリート
)
せなあかんからやった。 もしも何かの間違いで、あれがまた外に
漏
(
も
)
れてくるようやとまずい。 俺はあいつの家にだけ、なんでか
普段着
(
ふだんぎ
)
で行った。いつもと変わらないような、普通の
格好
(
かっこう
)
で。 それでも、先方の親に失礼のないように、
精々
(
せいぜい
)
、京都のボンボンらしく、身なりは
整
(
ととの
)
えて。 あいつの家は、大阪にほんまにあった。意外なことに、金持ちやった。 なんやこれみたいな洋風の白い家で、うちのおかんが好きな『風と共に去りぬ』とかに出てくる家みたいなんやで。白い
円柱
(
えんちゅう
)
とかあってな。
勝呂
(
すぐろ
)
の住んでる家とは思われへんかった。 でも間違いなくあいつの家やねん。黒い鉄で
編
(
あ
)
まれた
格子
(
こうし
)
の門の
脇
(
わき
)
にある、その家の
表札
(
ひょうさつ
)
には、ちゃんとあいつの名もあった。 三人家族やった。話してたとおり、あいつもひとりっ子。 前もって電話してあったんで、インターフォンに話すと、中から
綺麗
(
きれい
)
なお母さんが出てきた。 ひらひらの
襟
(
えり
)
の、白いブラウス着た、黒いフレアスカートのおばちゃん。 それは
喪服
(
もふく
)
のようでもあり、
地味
(
じみ
)
なようでいて、なんやら花のような
軽
(
かろ
)
やかさのある人やった。
瑞希
(
みずき
)
ちゃんの、お友達の方ですねと、悲しみ
疲
(
つか
)
れたような顔で、その女の人は俺に
尋
(
たず
)
ねた。そうですと、俺が答えると、その人はやっと
微笑
(
ほほえ
)
んだ。 息子は家に友達を連れてきたことがない。せやから友達がいないんやないかと、お母さんは心配してはったらしい。 もらわれっ子やからて、いじめられてるんやないかと、子供のころからずっと心配してたんやと、レースのハンカチで
目頭
(
めがしら
)
を押さえながら、その洋風でひらひらのおかんは話してた。 あいつは
養子
(
ようし
)
やったらしい。
幼稚園
(
ようちえん
)
くらいの
年頃
(
としごろ
)
に、家の前に突っ立ってんのを
拾
(
ひろ
)
われて、いろいろ
経
(
へ
)
てから、この家の子になったんやって。
首輪
(
くびわ
)
を持ってたんやと、ひらひらのお母さんは、涙ながらに
震
(
ふる
)
えながら話してた。この人もちょっと、
錯乱
(
さくらん
)
してるんやないかと、俺は
身構
(
みがま
)
えて話聞いてた。 この家は長く、子供が
授
(
さず
)
からんで
悩
(
なや
)
んだ。とうとう
諦
(
あきら
)
めて、代わりに犬を
飼
(
か
)
った。
血統書
(
けっとうしょ
)
付きのマルチーズ。 男の子が欲しかったから、オスにして、ひらひらのお母さんは、生まれれば息子につけたいと
憧
(
あこが
)
れてた、
瑞希
(
みずき
)
という名を犬に与えた。 そしてほんまの息子のように
可愛
(
かわい
)
がって育てた。お前がほんとに息子やったらよかったのにと、時々話しかけてみたりして。 そんなこと、したらあかんかったな。犬は犬でよかったんや。人の子の代わりなんか、できるわけない。 それでもその犬は
忠犬
(
ちゅうけん
)
やったんやろ。そして
深情
(
ふかなさ
)
けやった。 白い犬はある日ふらっといなくなり、ひらひらのおかんを
発狂
(
はっきょう
)
させたが、やがて戻ってきた。
幼稚園
(
ようちえん
)
ぐらいの子供の姿で、いなくなった時に持ってたのと同じ、犬の
首輪
(
くびわ
)
持って。 それは
怪異
(
かいい
)
やったんやと思う。神か悪魔に、あいつは出会った。 そういうこともあるんやろ、不思議なことばっかりの、この世の中やから。 おかんは
悩
(
なや
)
みもせず、
拾
(
ひろ
)
ってやった子を
瑞希
(
みずき
)
と名付けた。 そいつはイイ子で育った。おとんにも
忠実
(
ちゅうじつ
)
やった。
賢
(
かしこ
)
かったし可愛いから、会社
継
(
つ
)
がせよって、お母さんは実の子みたいに可愛がってた。わがまま言わん子やった。物もねだらん。
躾
(
しつけ
)
も行き届いてた。
親孝行
(
おやこうこう
)
やった。どこに出しても
恥
(
は
)
ずかしくない我が息子。
賢
(
かしこ
)
いからアメリカ
留学
(
りゅうがく
)
やって、おかんは一緒に行くつもりやったらしいで。 でもその
肝心
(
かんじん
)
な時になって、
可愛
(
かわい
)
い
瑞希
(
みずき
)
ちゃんは突然
我
(
わ
)
が
儘
(
まま
)
を言った。 友達と
長堀
(
ながほり
)
のほうへ行く言うて出かけて、帰ってくるなり、京都の
美大
(
びだい
)
へ
通
(
かよ
)
いたい、
留学
(
りゅうがく
)
はやめてもええかと、思い詰めた顔で
頼
(
たの
)
むんやって。 それで、ひらひらのおかんは
可哀想
(
かわいそう
)
になって、そうしましょう、画家もええわねと、あっさり
迎合
(
げいごう
)
。 そして
可愛
(
かわい
)
い
瑞希
(
みずき
)
ちゃんは、おらんようになってしもた。どこ行ったかわからへん。
居
(
い
)
なくなる前、京都から傷だらけで帰ってきて、お母さん、許してくれとあいつは
詫
(
わ
)
びたらしい。 人間になられへん。なりたいもんには、俺はなにひとつなられへん。悪い子やから出ていくと、そう言って、そのまま消えたらしい。 あの子はほんまにええ子やったのにと、ひらひらのおかんは泣いていた。 どうなんやろう、それは。あいつは、ええ奴やった。でも、ほんまにそれだけか。 人にも、人でなしにも、
綺麗
(
きれい
)
なとこと、
醜
(
みにく
)
いところがあるやろ。 亨かて、そうやないか。その
清濁
(
せいだく
)
合わせてはじめて、一個の存在なんとちゃうか。 あいつはいつも、自分の
綺麗
(
きれい
)
なとこだけ人に見せようとしてたんやないか。俺もそうやけど。人が好みそうな、
無難
(
ぶなん
)
なとこだけを見せて、それで許してもらおうとしてた。それでやっていけると。 でも、それやと
寂
(
さび
)
しくて、俺はほんまはこんな奴やと、誰かに見せたかった。 あいつにとっては、その誰かが俺やったんやろ。 ひらひらのおかんに
頼
(
たの
)
んで、
勝呂
(
すぐろ
)
の部屋に入れてもらって、パソコンの中にあったデータを消した。 ログイン用のパスワードはな、スタートレックやったわ。STAR TREK。俺の好きな映画。 あいつも好きやって話してた。映画好きやねん。CGやる奴やしな。その辺の話、話し出したら止まらへんみたいなところあった。 なんでもよく知ってた。ほんまに好きやったんやろ。
制作
(
せいさく
)
終わったら、一緒に映画行こうって約束してた。
由香
(
ゆか
)
ちゃんと三人で。 でも、たぶん、あいつは俺を
誘
(
さそ
)
ってたんや。二人で行こうって。 行ったらきっと楽しいやろなあ、て、俺は普通に思ってた。それが後ろめたいとは、気づいてるような、気づいてないようなで。 でも、行けず
仕舞
(
じま
)
いで良かったな。
寂
(
さび
)
しいけど、行かなくて正解やった。
勝呂
(
すぐろ
)
の部屋は、
可愛
(
かわい
)
いような部屋やったわ。ひらひらのおかんの趣味なんやろ。子供のときのまま。
親孝行
(
おやこうこう
)
な
瑞希
(
みずき
)
ちゃんが
頑張
(
がんば
)
った、
表彰状
(
ひょうしょうじょう
)
とか、トロフィーとかが
一杯
(
いっぱい
)
飾
(
かざ
)
ってあって。 でも、がらんどうみたいな場所やったで。
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椎堂かおる
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