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49 雉子島樹〈2〉
「試験お疲れ様、雀谷君。夕も来たんだ」
「お、来た来た。雀谷君が樹を拾ってくれたのか。サンキュー」
研究室に着くとオセロをしている白岡と周藤が出迎える。樹はつかつかと中へ進むと答案用紙の束をオセロ台の隣に叩きつけた。
「岳嗣さん、この貸しはでかいからな」
「はいご苦労さん。まあ良いじゃないかどうせ暇してたんだろ?」
「暇じゃねえし。俺の大事な睡眠時間返してくれよ」
口をへの字にして苛立ちの収まらない樹を周藤はまあまあと口先だけで宥めながらパチリと黒面の石を置く。
「白岡教授も周藤先生も、もしかしてここでずっとオセロしてたんですか?」
「まさか。隣の資料室整理してたら出てきたからちょっと遊んでただけだよ。周藤君も休ませてあげたいしね」
今度は白岡が白い石を置く。ゲームは終盤に入っているようで格子の中を多くの石が埋まっていた。そして盤上は殆ど黒かった。
「周藤先生、もしかして具合悪いんですか?」
それで今日来られなかったのかと周藤を案じると、周藤ははははと乾いた笑みを浮かべる。そんな周藤に代わり樹がはあと溜息を吐いて口を開いた。
「ただの二日酔いだ」
「いやー昨晩飲み過ぎちゃって。恥ずかしいね、気持ちはいつまでも若いんだけどなあ」
はあ、と利人が半分呆れていると樹が横をすり抜けて出ていく。またなー、と周藤の伸びた声が後を追った。
「周藤先生、今の方甥御さんなんですか?」
「そう。雉子島樹 、君と同じ二年だよ。今は関東に住んでてヒガシ大に通ってるけど、ついでに連れて来たんだ」
「周藤君も樹君のお母さんもこっちの出身なんだよ。僕らももう高校の時からの付き合いだから長いもんだね。周藤君は中学生だったっけ」
白岡の口添えにへえと口を開く。
先週海に行ったときも思った事だが二人は仲が良い。けれどまさかそんなに長い付き合いだとは思わなかった。
「父と一番親しいのは周藤さんなんですよ。周藤さんは俺が子供の頃から時々うちに来ますけど、父の知り合いで周藤さん以外の方が来られたの見た事ないです」
「僕友達いないからさあ」
夕の言葉に付け加えるようにのほほんと答える白岡に利人は何と返したらいいものかと答えに迷う。
そしてはっとしてここへ来た目的を思い出した。
「周藤先生、ご用件は何だったんですか?」
「ああそれね。資料室の整理手伝ってほしいんだって。お礼に今夜は白岡先生が飯奢ってくれるってよ」
そう言って周藤はお猪口を傾けるポーズを取る。まだ飲むつもりなのか。そうこうしているうちにオセロの石は盤上を埋め周藤の圧勝で終わった。白岡は少し悲しそうに眉を下げている。
「すみません、俺……」
「父さん、その整理俺も手伝って良いですか」
利人が口を開いた直後、夕も口を開く。夕の発言に白岡は頭を上げてぱちぱちと瞬きをした。
「それは助かるけど……」
白岡の視線は周藤と利人を順に回って夕に戻るとにこっと頭を傾ける。
「今夜の集会は成人限定だから夕はその前に帰るんだよ」
「え」
固まる夕に、利人も慌てて口を開く。
「あの、折角のお誘いなのに申し訳ないんですが俺も欠席します」
「えー!」
利人の言葉に今度は白岡と周藤が唇を突き出してブーイングをする。
「すみません、バイトがありますので」
「バイトって居酒屋の?」
白岡の問い掛けに頷くと、白岡は「そっかあ」と眉を下げて考え込む。
そして直後、ぱっと瞳を輝かせた。
「じゃあそこで飲もう!」
「はい?」
乗り気の白岡と周藤のペースに飲まれ、拒否権を与えられない利人は夕と顔を見合わせて重く肩を落とした。
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