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20 害獣対策〈2〉

「とりあえず、俺から言える事は那智さんには関わらない方が得策って事だけです。もし会いそうになったら逃げてください」 『わざわざ逃げなくてもいいと思うけど……まあ、学部違うし平気だろ。悪いな気ぃ使わせて』 「全然。また何かあったら言ってくださいね。発散しないと」  はは、と利人が笑う。 『そういえば、あいつは夕とちょっと似てるよな』 「え」  軽く爆弾発言を投下され耳を疑う。  今、何と言ったのか。 『うん、何かそう思うと全然平気な気がしてきた。じゃ、そろそろバイトだから切るな。ありがとう、またな』 「え、ちょっと利人さん」  ぷつりと通話の切れたスマートフォンを耳から離し呆然とする。 空は夜闇が迫っていた。日暮れの空はあっという間に変わっていく。 (どういう意味なの、利人さん)  何がどこがどうして那智と似てるだなんて思ったのか。  分からない。分からないが、とりあえず。 「那智殺す」 「白岡、スマホが死ぬ。ナチって誰」  ぽつりと忌々し気に吐き出しながら手に力を込めると、握り締められたスマートフォンがぴしりと悲鳴を上げた。 その手を緩めて背後を振り向くと、黒髪を風になびかせ灰色のブレザーを着た少年が棒つきキャンディーを口の中で転がしながら座っている。  鴉取藍(あとり あい)。夕と同じく当時詰襟の制服を着ていた中学からの持ち上がりの普通科で、もう二年位の付き合いになる。同学年の中では唯一遠慮なく素で話せる相手だ。 因みに、沢山あるクラスの中毎年クラス替えが行われているのにずっと同じクラスだ。来年こそ別のクラスになれば良いのにと願っている。 「いけすかない男。最悪な事に利人さんと接触してしまった」 「過保護か」 「お前にだけは言われたくねえ」  藍は同じく普通科の双子の兄、(こう)に異常な程執着している。今も紅が美術部の活動が終わるのを時間を潰して待っていた。因みにこの屋上からは隣の棟にある美術室がよく見える。  それでよく嫌がられないものだと常々思うが、この藍の寵愛を十七年近く受け続け平然と許している紅も紅だと思う。 「鴉取、俺利人さんに那智と似てるって言われたんだけど」 「へえ」 「何でそう思われたのか分からない。那智は相手が嫌がるようなふざけた事も平気で言うし女はとっかえひっかえだらしないし裏表がないって言うと良く聞こえるかもしれないが腹は絶対黒い男だ」 「お前は裏表激しいからな」 「そう。違う。そこじゃねえ」  藍は面倒臭そうに飴を舌の上で転がし空を仰ぐ。  夕が藍の返事を待っていると、藍は棒をつまんでちゅぱっと黒い塊を出した。コーラ味だ。 「似てるんじゃない?」 「どこがだよ」  藍の返事に不服な夕は眉を顰める。  利人に出会ったばかりの頃散々彼をからかい失礼な発言も浴びせていた事はすっかり棚に上げていた。

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