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42 泡沫の熱に溶ける〈2〉

「利人さん、一度着替えましょうか」  は、と睫毛を震わせると夕がタオルと着替えをシーツの上に置いて布団に手を伸ばした。利人の心臓は縮み上がり咄嗟に布団を押さえる。 「い、いい。このままでいい」 「でも、汗沢山掻いたから気持ち悪いでしょう。シャツのままっていうのも何だし着替えた方が良いです」  む、と唇を曲げるも夕も引く気はないようでじっと目を覗き込んでくる。思わず身を引いて渋々了承すると夕は満足そうに表情を和らげた。  身体の変化に気づかれないよう夕に背を向けて重くなったシャツを脱ぐ。指先がもたつくが何とかボタンを外して袖を抜き、シャツの下に着ていたTシャツも脱ぐと汗ばみ火照った肌が露わになる。  用意してくれた服は夕のものだろうか。長袖のTシャツを手に取り袖に通そうとしたその時、背中に冷たい物を押しつけられてびくりと肩が跳ねた。 「な、何」 「身体拭きますね。じっとしていてください」  濡れたタオルがひんやりと利人の背中の上を滑っていく。  ただ身体を拭かれているだけなのにそれにもぞくりと反応してしまって息を潜めるのに必死だった。 (どうしよう。このままだとバレる)  布団を引き寄せじっと身体を硬くする。ここでやっぱりいいと断るのは不自然だ。身体を拭く位きっとすぐに終わる。ただじっと耐えれば良い。 「気持ち良いですか?」 「う、ああ、ありがと。何か看病慣れしてる? 随分手際良いんだな」 「え? あー……、いえ、全然。何をすれば良いのか薫さんに教えてもらったんですよ」  気を反らすように話し掛けると、夕は気恥ずかしそうに言葉を濁す。その反応がいかにも男の子らしくて迂闊にも少し和んでしまった。夕もただの高校生の男の子なんだなと実感する。  しかしその気の緩みが油断となる。 「ひゃ、」  タオル越しの夕の手は背中から脇腹へ移り、こそばゆさにぞくっと肌が粟立った。思わず上がった声に羞恥心が込み上がり口元を押さえる。 「くすぐったいですか? 我慢していてくださいね」  くすくすと小鳥の囀りのような声が耳元に落ちる。  近い。  すぐ後ろに夕がいる。微かな息遣いさえ聞こえてしまいそうな程すぐ傍に夕の唇がある。  ごくり、と唾を飲み込んだ。  落ち着け、変に動くな。声を出すなと自分に命令する。  冷たい感触は腕の表面を滑り、肩、首、そして胸元へ。  濡れた布地が胸の突起に擦れてきゅっと唇を噛み締めた。タオル越しとはいえ夕の手がそこを通っていく様を目の前で見るのに耐え切れず、目を閉じ布団を握り締める手にも力が籠る。  けれど視界を閉ざす事で感覚はより鮮明に利人を襲う。  冷たい感触が再び胸の上を通っていく。ちり、と細かな電流のような痺れが先から広がる。  もどかしくて、下の方がじりじりと熱くて、堪らなくて。  上から下へ、腹をなぞられるとぞくぞくとして気が遠くなりそうだった。  息が上がって身体もぴくりぴくりと震える。  もう駄目かもしれない。こんなんじゃきっとおかしいと思われる。 (引かれたらどうしよう)  は、と熱い息が零れる。  自分でもどうしてこんなに身体がおかしいのか分からない。けれど多分、あんな夢を見たせいだ。おまけに熱で頭もぼんやりしている。  夕は不調のせいだと思ってくれるだろうか。そうでないと困る。  困るのだ。 「利人さん」  耳元に直接吹き掛かる吐息と低い声にざわりと心臓が跳ねぱちりと目を開く。  そして瞠目する。  真っ先に見えたのは夕のすらりと伸びた綺麗な手。その手が利人の下腹部に添えられている。  つう、と膨らみをなぞられ声なき悲鳴が上がった。 「リラックスして。俺に任せてください」 「ばっ、何言って、離……」  夕の手を離させようとその手を掴むも逆に握り込められ自由を失う。同じ男だというのに夕の手は利人のそれより大きく骨張っていて、たったこれだけで圧倒的な力の差を――雄の優位性を漠然と見せつけられる。 (ああ……)  身体が疼く。  それはまるでたちの悪い病にでも掛かっているようで。 「俺に触れられるのは嫌ですか?」  また息が耳元に吹き掛かる。 (耳元で喋るな……!)  直に聞こえる夕の声にさえこの身体は反応してしまう。いつもならきっとそんな事はないのに、こんな身体ではとても気が持ちそうにない。 「も……」  かたかたと手が震える。呼吸が不規則になり悩まし気に目を細める。 「もう、やめてくれ……」  ひくりと喉が震えた。

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