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84 蜜夜〈2〉*
「もう限界。……挿れたい」
くちり、と柔らかくなった後孔を指先で撫でられ敏感な内側を刺激される。意表を突かれた利人は、思わず短い嬌声を上げてぶるりと腰を震わせた。
「ゆ、夕……」
ごくりと生唾を飲み込む。
この身体を抱きたいのだと、強く訴え掛けてくるその瞳に、その低い声にぞくぞくと全身が反応する。
「利人さんが淫乱だって言うなら願ってもない事だ。俺は利人さんの身体を余す事なく愛して、愛し尽くしたい」
ぬる、と夕の下腹部の熱が足の間に擦りつけられる。たったそれだけで後孔はきゅうと物欲しげに収縮した。
「利人さんも知らない利人さんのいやらしい姿、全部俺に見せて」
くらり、くらりと。
それはまるでまだ熱に浮かされているようで。
「夕」
きっと身体中赤く火照っているのだと思う。
身体が、火を噴くように熱いから。
喉が、身体がからからに渇く。
「……早く」
そう、言うのがやっとで。
けれど夕は満足そうに微笑むと、涙に口づけるように利人の目尻にそっとキスを落とした。
そうして夕は小さな四角い袋を取り出すと口に咥えビッと勢い良く破く。破れた袋の中から現れる薄い桃色のそれはこれから行われる行為の象徴だ。
裸で抱き合っていて今更なのに、それでもどきりとする。性急なその仕草に野性的な強い眼差しが重なり、濃く深く色が匂い立つ。
「――ッ、あ」
ずん、と強い圧迫感。いくら柔らかくなったと言っても指とそれとでは質量が違い過ぎる。
(苦しい)
夕に持ち上げられた足がわなわなと震える。少しずつ入ってはいるのだ。それでもぎちぎちと内壁を抉ってくるそれに慣れるには時間が必要で、受け入れる為にきつく息を詰める。
「利人さん」
「へい、き。全然、平気だから……」
汗が額に滲む。心配そうな夕の顔が目の前に迫り、労わるように優しく汗で張り付いた前髪を掻き上げられる。
「う……ぁ、ア」
ぐっ、と強く中を擦られ腰が弓なりに反る。唇を食んだ夕のそれは汗を吸うように首筋を伝い、胸の突起を甘く噛んだ。
すぐに硬くつんと尖るそこを唇と舌でじっくりと愛撫される。時に弱く、時に強く刺激されたそこは真っ赤に熟れ、久し振りの挿入に強張った身体は再び熱を取り戻していった。
そうして同時に奥を擦られ、ひくりと喉が震える。
「全部入ったよ、利人さん」
は、と荒い息を吐き出し下腹部を見下ろす。そうしてぎこちない手を忍ばせれば、その繋がりの深さを実感した。
「入った……」
ほう、と安堵の溜息が零れる。
繋がれた事が嬉しくて。
溢れる愛しさに、じんと涙が滲んだ。
「辛かったら言ってください。出来るだけ優しくしたいから」
「……うん」
ぴったりと肌を合わせて抱き締め合う。深く口づけ、ひとつになる。
それがとても、心地良くて。
身体を重ねるという事がこんなにも気持ち良い事なのだと、初めて知った。
ひとつ甘い痺れを拾うと、そこからあっという間に快楽が広がる。どちらのものか分からない程唾液を絡め、与えられる熱に身を投じ、感じるままあられもない声を上げる。
それはとろとろと溶けた濃厚で甘い蜂蜜のような官能で。
「ゆ、夕。夕、待っ、」
あまりの刺激に気が遠のきそうになる。名前を呼ぶ声すら甘ったるく響いている事にも気づかない。
「辛いですか? そろそろ……」
「抜、くな」
腰を引こうとした夕を咄嗟に言葉で制す。
荒く息を吐き出しながら縋るように夕の腕を掴んだ。
(まだ、……まだ)
離れたくない。
そうして中の熱を確かめるように無意識にきゅうと締まり夕が僅かに呻く。
「り、ひとさん。あんまり締めつけると……」
きつく眉根を寄せる夕の額に汗が滲む。
その顔を見たら、ああ可愛いな、なんて思ったりして。
「じゃあ……一緒に、イこうか」
目を細め、小さく呟くようにそう囁く。
喘いだ身体は汗ばみ、ただ互いを求め貪り合う。
すれ違っていた時間を埋めるように。
気持ちを確かめ合うように。
「利人さん……っ」
好き。好きです。
耳元で囁かれる優しく愛おしい声に睫毛を濡らして目を閉じる。
そうして一際高く甘い声を溢れさせ身体をしならせた。
俺も。
俺も、お前が好きだよ。
***
朝日が昇り、カーテンの隙間から淡い光が漏れる。
とんとん、とドアがノックされ「入るよ」の抑えられた声と共に沙桃が顔を覗かせた。
そしてベッドに目線を止めると、ほっとしたように柔らかく目を細める。
「仲直り、出来たみたいだね」
ベッドの中では夕と利人が肩を寄せ合ってすやすやと健やかな寝息を立てている。
何だ何だ、と首を伸ばす樹に沙桃は唇の前で人差し指を立てそっとドアを閉めた。
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