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第2部 めぐる ~エピローグ~【完】
青空の下軽快に車が走る。
例の写真はデータが壊れていたと夕から聞き、利人はほっとする反面少し見てみたかったなとも思った。見ても那智との写真は特に不快なだけかもしれないけれど、森の中で後藤と話しながら撮られるのは気恥ずかしくも少し楽しかった。
この事は、自分の中の秘密だけれど。
「折角両想いになれたのにすぐ離れ離れなんて……俺もそっち行っていいですか」
「馬鹿言え、明日は学校だろ」
ですよね、としゅんとする夕の頭をぽんぽんと撫でる。
「夜、電話するから」
そう言うと、夕は眉を下げて少し嬉しそうに「はい」と頷いた。そうして唇を重ねられ、突然のそれに利人は目を見開いて慌てる。
「お前、こんなところで」
「恋人同士なんだから普通ですよ」
「そ、そうなのか?」
平然と言ってのける夕に利人はたじたじだ。
何分恋愛経験が乏しくて当たり前のように言われてしまうとそういうものなのかと納得しそうになる。
「騙されてる騙されてる」
「バカップル……」
くすくすと笑う沙桃と呆れる樹の反応に利人は羞恥し、じろりと夕へ視線を向けると夕はにまにまと頬を緩めている。
「馬鹿、からかうなよ!」
「からかってませんよ。俺は幸せを噛み締めてるだけです」
ふふ、と笑う夕が本当に嬉しそうで。あまりにも可愛くて、嬉しくて、幸せなのはこっちの方だと顔がにやけそうになるのを吞み込んだ。きっと今変な顔をしている事だろう。
「そうだ、めでたく二人が結ばれた記念に今度お祝いしようか。場所はやっぱり『オータム』かな? 達也や周藤さんも呼んで。ね、そうしよ」
「お、お祝い?」
「泊まりで行きます」
沙桃の提案に困惑する利人に対し即答する夕。皆にわざわざ集まってもらって祝ってもらうなんて恥ずかしい事この上ない。大仰なそれに利人だけが戸惑っている。
「いやそういうのはちょっと、」
「ホテルは僕らに任せて! 夜景の綺麗なところを押さえるよ。存分にリイを持ち帰ると良い」
「沙桃‼」
全く話を聞かない沙桃に利人は慌てて止めに入る。これは何とかしなければとちらりと夕を見れば、黒曜の瞳は楽しそうに細められ唇は緩やかな弧を描く。
「利人さんを俺にくれるんですよね?」
じわりと、頬が赤く染まる。
どうしてあの時あんな事を言ってしまったのかと後悔してももう遅い。
どうせ、この心はとうに病める恋に落ちてしまっているのだから。
心が震える。
想いが降る。
そうして廻り、巡って、
また、君に触れる。
これは恋を知らない青年と少年が出会い、愛しさを知り、心を通わすものがたり。
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