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【番外編4】結婚したい夕の話

=多分10年後位の同棲夕利の話(夕視点)=  知人の結婚式に出た。  他人の結婚式なんて興味はないし義理で出席しただけだったが夕は衝撃を受けた。  数多の祝福を受け幸せそうに微笑む新郎と新婦。  その眩しさに、思わず目を細めた。 「結婚したい……」 「夕おかえり……ってどうした、そんなに飲んだのか?」  玄関の扉を開け出迎えてくれた愛おしい人の身体を思い切り抱き締めた。呟くように零れ出た言葉は彼の耳には届かなかったのか、帰るなり突然覆い被さってきた夕を心配そうに抱き締め返す。  自然なその行為に夕は口元を綻ばせ彼の身体をじっくりと確かめるように抱き締める手に力を込めた。 「利人さん、愛してる」  そう耳元で熱っぽく囁けば腕の中に閉じ込められた利人は赤褐色の髪の隙間から赤らんだ頬を覗かせる。  可愛いひと。誰より愛おしい、俺だけの恋人。  優しく唇を食めば馴染んだ弾力が熱を伝える。唇の形を、感触を角度を変えて楽しむ。 「ん、……っはぁ、ゆう……」  甘く零れる声にぞくぞくと全身が悦びに湧く。  舌を絡ませればより一層それは淫らに響き麻薬のように夢中になって恋人の熱い口腔を貪った。  風呂上りなのか利人の髪は濡れていて触れる肌も口の中もいつもいり熱を持っている。 「夕、酔ってるのか……?」  は、と息を切らす利人の瞳は潤み、その上目遣いで夕の雄を刺激している事に彼は気づかない。  いつもそうだ。彼はそうやって無意識に夕を煽る。想いを通わせてから随分の時が過ぎたが、彼は自身が以前よりも艶のある雰囲気を纏うようになった事を知らない。それを伝えても冗談だと笑って疑わない。こちらは嫉妬してもし足りない位だ。  もっとすごい事を数えきれない程してきたというのに垢抜けないというか、顔を赤らめたり恥ずかしがったりする姿はとても愛らしいのだけど。  何年経っても愛しくて堪らない、むしろ年々想いの深さは増していくばかりだ。 「酔ってないですよ。――ただいま、利人さん。早く会いたかった」 「ちょっとしか経ってないだろう。全くお前は……」  利人は困ったように眉を下げ、くすりと微笑んで「おかえり」と囁いた。  式の間から早く利人に会いたくて堪らなかった。ネクタイを緩めながら再び柔らかな唇へ自らのそれを重ねる。  不意に切なさが込み上げてそれを誤魔化すように彼の腰を抱き込んだ。  ずっと傍に居たい。  いくら愛を囁いても身体を重ねてもまだ足りない。 (結婚出来たらいいのに)  この人が俺の最愛の人なのだと全世界の人に伝えたい。普段この関係を秘めている分、たまにそんな事を考えてしまう。  それを彼に伝えたら馬鹿だと言って笑うだろうか。 (けれどそれ程に俺は貴方を愛してやまないんだ) 「馬鹿じゃないのか?」 「ほらー!! でもそんなクールな利人さんも好き!」 「全世界の人にってのは大げさだけど……でも、まあ、俺も似たような事考えた事はあるよ」 「……利人さん!!」

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