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両片想い7

 そろそろ本当の理由を言わないと、激昂させてしまうかもしれない。そうなったら、間違いなくお手上げ状態になる。  恋人になったのをいいことに一度約束を無視して、Hなコトを進めようとしたら、平手打ちを思いっきり食らった痛い過去があった。  怒りに躰を震わせながら、鬼のような形相で先生に睨まれた途端に、冷や水を浴びせられた気分に陥った。変なことして怒らせるのはもう二度とごめんだと、強く思った瞬間だった。 「……しっ、白鷺課長は午前中、隣の課の女と廊下で喋ってただろ」  変に上ずった俺の声が、部屋の中に響く。 「何で、そんなことを知ってるんだ? もしやお前、仕事をサボって、俺のあとをつけたのか?」  動揺を示した俺の声とは裏腹に、先生の声はいつも通りだった。 「違う! 分からないところを聞きたくても、みんな自分の仕事に忙しそうだったし、空いてるのは白鷺課長だけだったから、出て行ったあとを追いかけたというか」 「…………」  この人は都合が悪くなったら、黙りを決め込む。昔からそうだった。だけどそんな沈黙すら愛おしく思えるのは、先生の視線を俺だけのものにしているから。  先生を独占できる、唯一のひととき――。 「はっ、そんなくだらない理由で、ここまで連れられたとは!」 「俺としては、それが不機嫌になる理由なんだよ。恋人がいる分際で見せつけるように、あんなところでイチャイチャしてさ……」 「イチャイチャしてるつもりはない。彼女に訊ねられたことについて、真摯に答えていただけだ」 「鼻の下伸ばして、女の躰を舐め回すように見てたくせに」  先生から『お前が好きだ』とたくさん告げられていたら、こんなくだらないことで、不安になったりしないのかな。俺ひとりでやきもきしながら大好きな人を口撃するなんて、したくはないのに。  こんなことを続けていたら、いつか捨てられるかもしれない。 「お前を不安にさせたみたいだな、悪かった。だけど彼女を、そんな目で見ていないから」  下唇を噛みしめながら上目遣いで先生を見たら、眉間に刻んだ深い皺を消し去り、まぶたを伏せながら小さく頭を下げる。言葉と態度の両方で謝られても、俺の気持ちはそれだけではおさまらなかった。 「俺を傷つけたバツとして、ここでオナニーしろよ」 「ここでって、なんで……」  もの言いたげな先生の視線は俺を突き通して、背後にある扉を見た気がした。

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