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両片想い21

「坊ちゃんの誤解を解きたい」 「何だよ、いきなり」  不機嫌な感情を表す声を聞きながら、自分の手首を掴んでいる壮馬の手の甲を、反対の手ですりりと撫でてやった。 「確かに隣の課の女性には、よく話しかけられていた。その理由は新入社員のお前に、一番深くかかわっている上司だからだ」 「イケメンで仕事のできる、白鷺課長を狙ったんじゃなく?」 「ああ。会社の次期社長候補であるお前の情報を仕入れるために、俺に接触してるってところさ」 「ケッ! くだらない。そんなもん、さっさとあしらえばいいだろ」  掴んでいる俺の手首を放そうと力が緩んだのが分かったので、甲を撫でていた手で壮馬の手をぎゅっと握りしめた。 「可愛い部下に変な虫がつかないようにするのも、上司の役目だろ」  俺に手を捕まれて自由を奪われても、抗うことなくそのままでいてくれる。こういう素直なところも、大好きだった。 「その言い方、色気がねぇな。そこは上司じゃなく、恋人にしてほしかった」  顔を俯かせて見えないようにしているのは、頬の赤みを見せないようにしているためだろうか? そんなことをしても、見下ろす形で目の前に立ってる俺からは、壮馬の顔は見放題だというのに。 「とりあえず、適当な嘘ばかり教えておいた。彼女に激辛ラーメンを食べに行こうと誘われたら、思いっきり不機嫌丸出しの顔で断ってくれると、俺の苦労が報われるんだが」 「課長がそんな意地悪なことをしてるなんて、全然思わなかった。俺ってば実は、ものすごく愛されちゃってる感じ?」  首をもたげたまま、視線だけ上げて俺を見つめる。窺うように投げかけてくるそれに『そうだ』と答えたいけれど、コイツのために俺は自分の気持ちを伝えられない。 「さあな……」  言いながら壮馬の手を解放してやる。そのタイミングで掴んでいた俺の手首を放し、テーブルに置かれたグラスを持つ。 「答えが分かってるのに、どうして同じことを聞いちゃうんだろ……。バカみたいだ」  どこか泣きだしそうな壮馬の微笑を前にして、秘めた想いが喉元まで出かかる。  それを止めるために、口元を引き締めながら壮馬の手からグラスを奪い、中身を半分だけ口に含んで、グラスをテーブルに置いた。

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