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両片想い22
「課長、自分のワインがなくなったからって、俺のをとることないだろ。空いたグラスに注いで、好きなだけ飲めばいいのに」
顔を上げて、射るようなまなざしで俺を睨みつける壮馬の顔を、両手でやんわりと包み込み、唇をきっちり重ねて、ワインをゆっくり流し込んでやった。
「んっ……、んんっ」
「こんなふうに飲むのも、結構美味しいだろ」
流し終えてから一旦唇を外し、顔の角度を変えて触れるだけのキスをした。俺としてはこのままベッドに移動したいと思ったのに、壮馬は自ら顔を退かせて唇を離した。
「課長から積極的になるときって、いつも何かあるよな」
「そうか? たまにはいいかと思っただけなんだが」
「俺に言えないような、隠し事をしてるだろ?」
(付き合いが長い分だけ、ちょっとした癖や表情ひとつで、考えていることが何となく分かってしまう。それは俺だけじゃなく、壮馬もそうなんだな)
「……隠し事というほどのものじゃない。もう終わった話なんだ」
「終わった話?」
オウム返しをした壮馬の声は、いつもより低いものになった。そのせいで、余計に話がしずらくなる。
「仕事中に社長に呼ばれた。壮馬が見かけた、隣の課の女性に話しかけられたあの日だ。いきなり見合いを勧められた」
「なんで親父が課長に、そんなもん勧めるんだよ」
「役職に就いてる以上、身を固めたほうが仕事にもやりがいが出るだろうって、社長なりの思いやりなんだと思う」
「そんなの……」
「俺には必要のない話だろ。丁重にお断りした」
「どうしてそのこと、黙っていたんだよ?」
壮馬はどこか必死な形相で、俺が着ているバスローブの袖を引っ張った。
「断った時点で、この話はなかったことになったからだ。結婚する相手は自分で見つけたいと付け加えておいたから、同じ話はされないだろう」
理路整然に並べ立てた俺のセリフを聞き、掴んでいたバスローブから手を放すなり、面白くなさそうな表情で椅子から立ち上がった。
「壮馬?」
「シャワー浴びて頭冷やしてくる。ここに連れて来たときみたいにイライラしてたら、課長の嫌なことしそうだから」
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