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両片想い29

「宥めるよりも、キスがしたい」 「なっ!?」 「俺を好きって言ったその唇を塞いで、愛を確かめたい」  壮馬の手によって思いっきり潰された顔の状態で、噛みつくようなキスをされた。 「っぐ、う……」  荒っぽい行為自体は嫌いじゃない。抑えきれない情熱をそのままぶつけられているのを感じて、同じように興奮することができる。  だが壮馬の場合は熱が入りすぎると、力も同時に入るせいで、ただ痛いだけの行為に成り下がるという、悲しい流れになってしまうことがしばしばあった。  以前の俺なら興醒め覚悟で目をつぶって続行させていたが、胸の内を晒してしまった今なら、教育的な指導も可能だ。 (まずは手始めに、痛いくらいに顔を潰している手を外すところから――)  がしっと壮馬の両手首を掴んで、ギリギリと握りしめながら横に引っ張った。 「いてぇよ!」 「それはこっちのセリフだ。よくも俺の顔を潰してくれたな!」  唇の横から漏れ出た、どちらのものとも分からないヨダレを拭ってから、痛む頬を撫で擦る。あと1分同じことをされたら、顔が変形していたかもしれない。 「そんなに痛かったのかよ?」 「何なら実体験させてやろうか」  素早く起き上がり、壮馬の頬を両手で包み込んでやった。 「ごめんって。悪気はなかったんだ」 「悪気がなければ、何をしてもいいのか? キスされる快感よりも、潰されてる顔の痛みのほうが強かったぞ」  額をぐりぐり当てて、ちゃっかりお仕置きしてやった。それでも痛みをちょっとだけ感じる程度のお仕置きになってしまうのは、惚れてしまった弱みだろうな。 「悪かった、そこまで痛いとは思わなかった。鉄平の愛の告白が嬉しくて、つい力が入っちゃった」 「ふっ。部下の失態は、上司の指導が悪いせいだからな。許してやるよ」  当てていた額を外して壮馬の顔を見つめながら、耳の上の髪の毛を左手で梳いてやる。自分とはまったく違う髪質を指先に感じつつ、気持ち良さそうに瞳を細める様子に、思わず笑みが零れた。 「しょうがない。上司兼先生として、壮馬にキスをレクチャーしてやるか」 「嫌だ」  教えようとした矢先に告げられた拒否するセリフに、テンションが一気に急降下する。

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