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両片想い30

「……せっかく教えてやろうと思ったのに」  壮馬に触れている両手を外そうとしたら、逃がさない勢いで握りしめられた。寄せられた顔から距離をとるべく、顎をくっと引く。 「嫌なんだよ。上司や先生じゃなく、恋人として教えてほしいから」 「恋人――」 「俺の片想いじゃないって知ることができて嬉しいところに、今までの関係をぶち込まれたら、思いっきり萎えるだろ?」 (そうか。コイツとは別れることを前提に付き合っていたから、俺の冷たい態度や距離感が、壮馬に片想いだと思わせていたんだ) 「俺は自分の気持ちをきちんと告げた。お前の気持ちを聞いてない」 「いつも言ってるだろ? もしかして忘れられちゃった感じ?」  目の前にある壮馬の顔が、してやったりな感じに見えて、内心ムカついた。  イライラするくらいにムカついているというのに、握りしめられた両手がじわりと熱くなる。もしかしたら、顔も赤くなっているかもしれない。こんなふうに壮馬に想いを言えなんて、強請ったことがなかったせい。  俺が強請らなくても、ウザいくらいに壮馬は心の内を晒していた。だからどれくらい想っているのかは、分かっているつもりだけど。 「お前の想いなんか、忘却の彼方だ」  まぶたを伏せて口にした瞬間に掴まれていた手を使って、ベッドの上に仰向けに押し倒される。  突然のことに声を出せずに躰を強張らせたら、壮馬は颯爽と上に跨ってきた。 「忘れんなよ、俺の気持ち」  俺が逃げないようにするためなのか、肩のつけ根を掴んで顔を寄せる。 「さっきされた、痛いキスで忘れたんだぞ」  ふたたび痛いキスをされないようにと、睨みながら寸止めを試みた。 「謝っただろ」 「誠意が足りない」  ぴしゃりと言い放った俺の短い返答に、苦虫を噛み潰したような表情をありありと浮かべて、「汚たねぇな、くそっ」なんて呟く。 「壮馬、どうした?」  年上の俺を口で打ち負かそうなんて、百年早いんだよ。壮馬がもっと操縦法を勉強すれば、今まで以上の関係を築けるだろうな。 「あ~もう! ちゃんと誠意を見せるから教えてくれよ」  片側の口角を歪ませて、心底嫌そうな顔で言葉をやっと告げた壮馬に向かって、満面の笑みで答える。 「分かってる。恋人としてな」

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