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両片想い31
俺の微笑みを見た壮馬は、必死に真面目な顔を作り込んだ後に、大きく息を吸い込んだ。
目の前でおこなわれる仰々しい様子に、嫌な予感が俺の背筋を沿うように冷たく流れる。
「白鷺課長のことを愛してますっ! この気持ちは一生涯変わりません、誓います!!」
冒頭で名前呼びを否定した、俺の気持ちを考慮したんだろう。仕事で使う名字を使ってくれたのはいいが、予想以上にでかい壮馬の声を間近で聞いて、耳の中がキーンとした。
あまりに突飛なことをされたせいか、目を瞬かせるのがやっとで、すぐには二の句が継げられない。
「白鷺鉄平が好きすぎて、夢の中にも出てくるくらい大好きなんだよ。堪らないほど好きな想いをいつも伝えているのに、そうやってだんまりを決めこまれる俺の気持ちを、少しは理解してくれてもいいだろ?」
「……だからお前はあえて、自分の気持ちを告げずにいたのか」
言いながら壮馬の首に両腕をかける。俺の腕の重みで顔が近づくはずなのに、躰を強張らせてそれをしないようにされた。
「鉄平は、どんな気持ちになった?」
「言葉で表現するのなら、寂しいとか物足りないって感じかな」
「俺も毎回同じ気持ちになった。だから何度もこの想いを告げたんだ。ひとえに、鉄平の気持ちが知りたくて。だけど……」
「ぅん?」
こんなに傍にいるのに、俺の力を簡単になきものにする壮馬の力が憎らしい。微妙すぎるこの距離感が、俺たちの今の関係みたいだ。
「俺はやっぱり、いつまで経ってもガキだなって。鉄平は鉄平の立場で考えることがあるから、自分の気持ちを隠していたのを、なんとなくだけど分かった気がした。それなのに俺は――」
「お前はガキじゃない。俺の気持ちをきちんと考えた上で、理解しているだろ。それだけ大人になったんだな」
首に絡ませている片手で、後頭部を撫でてやった。
「壮馬、もう少しだけ顔を近づけてくれ。唇が触れる手前まで」
「これくらい?」
「恋人として、キスの仕方を教えてやるよ」
指示したところにいる壮馬の顔は近すぎて、ぼやけてしまう。それでも目を開けたまま、柔らかい下唇をちゅっと食んでやった。
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