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両片想い48
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石川さんが出て行った瞬間、鉄平はがっくりとうな垂れながら、ものすごく小さな声で呟く。
「石川にアレを見られてたなんて、しくじった……。今後一切、壮馬に手を出しちゃいけないな」
「ここでしたキスもそうだけど、給湯室のキスも珍しかったもんね。いつもは、うまくあしらって終了なのに」
悔しそうな顔で長机をバシバシ叩きまくる恋人に向かって、宥めるように話しかけた。それなのに、まったく効力がなかったらしい。
ムスッとしたまま、俺の頬をぐりぐりする。八つ当たりもほどほどにしてほしい。
「坊ちゃんが全部悪いんだ。もっとしっかりしてくれたら、俺がこんなに苦労せずに済むんだぞ」
ずっと長机を叩いて気が済んだのか、最後に大きな音を立てるようにグーで殴り、じろっと俺を睨む。
「え~、俺ってばしっかりしてると思う。社内にいる問題児をこの手で成敗した上に、悪さができないようにコントロールもバッチリやってのけたでしょ?」
(俺としては鉄平に、そんなに苦労させてるつもりはないのにな)
「……おまえ、石川が悪さをしていたという相談、いつの間に受けたんだ?」
「受けてないよ、あれはハッタリをかましただけ」
舌を出して肩を竦めたら、眉間に皺を寄せて不快感をあらわにした。
「うわぁ、危ない橋を渡りやがった。どんな神経してるんだ」
「ついこの間入社したばかりの新人相手に、男に襲われたなんていう相談を、わざわざしないと思うけど」
「坊ちゃんはただの新人じゃない、社長の息子だろ。というかあのとき石川に論破されたら、どうするつもりだったんだ?」
額に手を当ててうんうん唸る鉄平に、へらっと笑ってみせた。
「別に。なるようになるかなぁと」
「まったく……。考えもなしにそうやって突っ込んでいくから、目が離せないんだ」
もしや俺が良かれと思ってやってることが、鉄平の苦労の種だったりするのか!?
「俺としては昔も今も、鉄平の視線をひとりじめしたいだけなんだよ」
「これ以上の我儘を言うな、さっさと戻るぞ。石川が戻ってるのに、俺たちが戻らないんじゃ示しがつかない」
少しでも甘い雰囲気にもっていくべく、会話をそんな感じにしたというのに、ひとりでやってろと言わんばかりの冷たい態度を、思いっきりとられてしまった。
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