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なおしたいコト12

 無意識なんだろうが、掴んでいる陵の指先に力が入り、スーツの上からでも分かるくらいに、爪が突き刺さる。 「克巳さんのお蔭で、今の俺がいるんだよ。リコちゃんに手をかけようとした事件を起こして、メディアに叩かれまくったあのとき。どん底まで落ち込んだ俺を見捨てずに、付きっきりで励ましてくれたから、立ち直ることができた。どんな困難が立ち塞がってもめげずに、負けない気持ちでいられたのは、貴方の優しさがあったからなんだ」 「陵……」  街頭演説をしたときのような、必死に訴えかける感じではなく、もの悲しさを漂わせた声が、心の奥底までじんと染み入った。  俳優としての顔を持つ彼。あえて演技じみてない、ひとりの男としての姿を目の当たりにして、二の句が継げられなかった。 「ときどき、怖くなることがあってね。ワガママばかり言う俺に、克巳さんが愛想尽かして、どこか遠くに行ってしまうんじゃないかって」  胸の内に抱える不安を聞いた瞬間、陵に向かって微笑みかける。少しでもいいから、暗く陰った心を明るくしたいと思った。 「愛想を尽かされるのは、俺かと思っていたよ。見た目も良くない上に、仕事だってそこまで万能じゃない。そのくせ独占欲は人一倍ある俺を、いつかは嫌いになるかもしれないってね」  掴まれている腕をそのままに、稜の躰を引き寄せた。片腕で抱きしめることになるが密着させるべく、ぎゅっと強く抱きしめる。 (君に出逢うまで知らなかった。頭も心もその人でいっぱいになるほどに、誰かに恋焦がれることを――嫉妬で狂いそうになる、胸の痛みを……) 「克巳さんってば、無自覚にもほどがある。党本部に行ったときにあちこちから、これでもかというくらいに熱視線が、ばんばん送られてるんだよ」 「それは俺宛じゃなくて、稜にだろう?」 「絶対に違うよ、克巳さんを見つめてる。顎に手を当てながら、整った髪をなびかせて颯爽と歩く姿とか、たまに笑いかけるところなんて、女の子たちがほわーんとしてるんだからね」 「キツネ目で人相が悪い俺と、見目麗しい陵を比べてるだけかと思う。というか、物好きは陵だけでいっぱいいっぱいだ」  肩を揺らしながらクスクス笑ったら、陵は掴んでる腕を放して、俺の両頬をぐにゃぐにゃと抓った。

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