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悪い男3
好きなヤツの行動を、簡単に導き出してしまう自分を嘲笑いながら目を閉じると、彼女に向かって優しくほほ笑む上條の顔が、まぶたの裏に映り込む。
こんなふうに、元カレが笑ってくれたらいいなと、何度思ったか。ヤるだけヤって、気に食わないことがあれば、容赦なく暴力を振るう元カレにほとほと嫌気がさして、自分から別れを切りだした。
すると別れた腹いせに、大学構内であることないことをでっち上げた噂を広められた。
『那月は誘えば簡単に跨ってくる、ビッチなヤツだぜ』なんていう、信じられないことをあちこちに吹聴しまくったバカのせいで、ベッドのお誘いが絶えなかった。
もちろん、すべて断っていた。ただひとり、上條を除いて――。
あれは、半年以上前だった。大学の中庭にある大きな木の下で、読書にふけっていた。ありもしない噂を流されたため、奇異な目で見られることに疲れ、人との付き合いを極力避けていた頃だった。
『おまえ、名倉那月だろ?』
物語の展開が面白くなりかけた刹那、いきなり話しかけられた。読んでる本から渋々視線を上げると、可愛い彼女といつも一緒にいる男が、目の前に立っていた。
「そうだけど。なにか用?」
『誘えば寝るって噂、本当なのか?』
投げかけられた問いかけが意外すぎて、持っていた本を閉じた。栞を挟むことを忘れるくらいに、俺としては衝撃的だった。
可愛い彼女はミスキャンパスに選ばれるようなコだったし、上條自身もイケメンに分類されるような男。そんなヤツが自分に声をかけること自体、信じられなかった。
「アンタ、彼女持ちなのに、俺とヤりたいっていうの?」
『男とヤるなんて、浮気のカウントに入らないだろ』
そう言いきった上條の顔は、いつも見ている優しい顔じゃなく、どこか陰りがあるせいか、妙に惹きつけられるものを感じた。
「ふぅん。彼女にはいい彼氏を演じるアンタの本性は、悪い男なんだねー」
「おまえには負ける」
「アンタくらいのイケメンなら、どんな女のコでも簡単にヤらせてくれそうなのに、どうして男の俺を誘うかな」
見るからにノンケの上條が自分を誘った理由を知りたくて、疑問を投げかけるように言の葉を紡いだ。
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