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抗うことのできない恋ならば、いっそこの手で壊してしまえばいい4

「男爵、見慣れない顔だね。新しく雇った執事だろうか?」  絶対に放さない勢いで、僕の手を握り潰す伯爵の行為に反抗しないことを示すべく、緊張を解きながら掴まれている腕の力も抜いた。 「彼はベニー・ロレザスといいまして、早くに亡くなった母方の親戚筋の執事をしていた者です。今回父が亡くなり僕が跡目を継ぐ関連で、有能な彼を呼び寄せた次第です」  説明している最中に僕の背後に控え、穏やかな笑顔を浮かべるベニーに、伯爵は値踏みするような感じで、彼のことをじっと見つめた。 「アーサー伯爵、楽しくご歓談中のところ、大変失礼いたします。先月からアジャ家のお屋敷で執事を務めさせていただくことになりました、ベニー・ロレザスと申します。以後お見知りおきを」  肩を少しだけ超えた白金髪を赤い紐で括ったベニーは、折り目正しく腰をきっちり曲げて、伯爵に頭を下げた。  舞踏会用に誂えた仕立てのいい服が、彼のもつスタイルの良さをこれでもかと引き出しているようで、男の僕ですら見ているだけで目の保養になった。  伯爵よりも背の高い彼の存在は、それだけで目立つのに、ひとつひとつの所作が際立っているため、あちこちから視線が飛んできているように思えた。 「ほう。父方ではなく、わざわざ母方の親戚筋から君を呼び寄せるなんて、まるで何かを隠すために呼ばれたのだろうか。たとえば男爵の出生の秘密ついて、かな?」  言いながらベニーを凝視していた視線を、僕に移動させる。先ほどまでとは違う好奇を含んだまなざしに気圧され、顎を引きながら俯くしかない。 (――アーサー卿が見ているのはきっと、僕の髪と瞳だろう。両親が持っているものとは、まったく違うから……) 「ローランド様の出生の秘密は、なにひとつございません。亡くなられた奥様の遺言をこのたび執行したので、私がアジャ家に呼ばれただけなのです」

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