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抗うことのできない恋ならば、いっそこの手で壊してしまえばいい5

「では先代の男爵夫妻の髪色は黒に近い茶系だったのに、どうして彼は目立つような朱い色の髪をしているのだろうか」 「それは母方に、そのような髪色のお方がいらっしゃったからだと思います。ローランド様によく似た朱に近い髪色のお方が、実際に数名おられます。他にも曾お爺様とローランド様がよく似ているのを、お屋敷に飾られていた肖像画で拝見しております」  ふたりの会話がテンポよくなされるため、口を挟む余地がない。喋る人物を、目線で追うのがやっとだった。 「どれくらい似ているのか、その肖像画を見てみたいものだな」  伯爵は手にしたシャンパングラスをちょっとだけ振りながら、挑むようにベニーを見つめた。 「残念ながら、数年前にそのお屋敷は火事に見舞われてしまったため、その肖像画を見ることはできないのでございます」 「それは本当なのか、男爵」  伯爵は事実をベニーに訊ねず、僕に質問を投げかけた。慌てて姿勢を正して、見知っていることを頭の中で整理しながら口にする。 「本当です。火災があった当時、僕はまだ幼かったのですが、父に連れられて見舞いに行った記憶があります。確か、ベニーも火傷をしていました」 「火事が起きた際、お屋敷に取り残された使用人たちを無事に避難させるべく、最後まで残って救助活動をしておりました。誰ひとり逃げ遅れることなく助けることができましたが、お屋敷の内部は全焼しました」 「出火の原因は?」 「漏電ではないかと。アーサー伯爵のお屋敷のように、スプリンクラーの設備が整っていたら、大きな火事にならずに済んだでしょうね」  言いながら僕が持っていたシャンパングラスを取りあげ、ベニーが持っていたものに変えられた。 「待て。男爵が手にしていたのは、俺が差し上げたものだ。なぜ取り替える必要がある」  僕が疑問を言葉にする前に、伯爵が告げてしまった。さきほどよりも低い声色は、明らかに怒気を含んでいるものだった。 「アーサー卿、僕の執事が大変失礼いたしました」  慌てて、取りあげられたシャンパングラスを戻そうとしたのに、ベニーは首を横に振りそれを拒否する。

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