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抗うことのできない恋ならば、いっそこの手で壊してしまえばいい6
「ベニー、アーサー卿のご好意を無駄にしたくはない。グラスを返してくれ」
「私がシャンパングラスをローランド様にお返しすれば、伯爵のご機嫌を損なうことなく、穏やかな時間をお過ごしできるでしょう。ですが――」
僕が持っているグラスの横に、ベニーが持っているグラスを隣り合わせた。
「執事として、ローランド・クリシュナ・アジャ様に誠心誠意お仕えすることを、私は生業としております。お屋敷で提供されているお飲み物と明らかに色の違うものや、通常よりも炭酸が抜けたものであるのを気づいているからこそ、このまま見過ごせませんでした。大切にお仕えしているローランド様に、そのようなものを口にしてほしくはないのでございます」
色の違いには気がついていたけれど、炭酸の泡まで目がいかなかった。よく見ると並んだグラスの中身は、まったく別なものにしか見えない。
「男爵、大変失敬した。照明の加減で、色が違って見えたと思ったものだから」
「謝らないでください。僕も同じ考えでしたので、あえて指摘しませんでした」
「ローランド様は、グラスに口をつけられたでしょうか?」
伯爵との会話を割って入るかたちで、ベニーに訊ねられた。これ以上伯爵の顔を潰さないように気を遣った、彼の配慮だろう。
「乾杯のあと、一口だけ飲んだ。口に入れた瞬間に渋みを感じたので、それ以上は口にできなかった」
僕のセリフを聞き終えないうちに、ベニーは持っていたグラスを目線まで上げて中身を確認後、口に含んだ。
目をつぶって飲んだものを味わうと、ふたたびグラスに口をつけて中身をすべて飲み干す。僕と同じように一口だけ飲むと思っていたので、目の前の行為に驚きを隠せなかった。
「いやはや、君の執事は大胆だな。酒に毒が仕込まれていたら、どうするつもりなんだ」
「ベニー、大丈夫なのか?」
「ええ、ご心配には及びません。仕事の傍ら、毒味役を仰せつかっているので、耐性をつけております」
にっこりと微笑んだベニーの顔色はいつもどおりで、ぐらついたりというリアクションもまったくない。
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