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抗うことのできない恋ならば、いっそこの手で壊してしまえばいい7

 どうにも心配で見つめ続けると、僕の視線を避けるように伯爵の顔に視線を移しながら、顎に手を当てた。 「もしかしたらアーサー伯爵を狙って、このグラスが渡されたのかもしれませんね。妙な眠気を感じます。ローランド様は大丈夫でしょうか?」 「問題ない。ちょっとだけ胸がドキドキする程度だ、アルコールの作用だろう。僕はお酒に弱いから」 「胸がドキドキ……ですか」  穏やかだった口調が一転、ベニーは唸るように呟く。伯爵を見つめるまなざしがあからさまに変わり、睨み潰そうとでもしているかのように、忌ま忌ましげな表情になった。 「執事殿、何か言いたげな顔をしているな。遠慮なく言ってくれてかまわない」  ベニーとは対照的な伯爵の穏やかな顔に、変な感じを覚える。話し相手にこんな嫌悪感を示されたりしたら、普通なら平常ではいられないはず。 (アーサー卿のことだ、いろんな経験を積んでいるからこその、余裕の表れなのかもしれない――)  ベニーは空になったシャンパングラスを窓辺に置き、伯爵にしっかりと向き合った。顔の厳しさが多少抜けたものの、内に秘めた怒りが目に出ていた。 「国王様のお気に入りの貴族として、アーサー伯爵をよく思わない方もこの中にいらっしゃるとは思います。他にも恋愛関連で恨んでいる方が、多くいらっしゃると思いますけど」 「否定はしない。仕事や恋愛において成功している者は、恨みつらみを買ってしまうからね」 「表向きは、狙われたことにしてもいいです。ですがローランド様に手を出すのは、おやめいただきたい」  ずばりと言いきったベニーに、伯爵はぷっと吹き出した。 「何が、おかしいのでございましょう?」 「男爵の美貌を前にして、手を出すななんて無理なお願いだな」  品定めするような粘っこい伯爵の視線に嫌気がさし、思わずベニーの後ろに隠れてしまった。

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