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抗うことのできない恋ならば、いっそこの手で壊してしまえばいい9

 だが彼はただの執事――僕の立場でものを見たときと彼の立場では、間違いなく考え方が違ってくるだろう。 「執事殿、そこを退いてくれ。これでは男爵と、まともに話ができないじゃないか」 「見てのとおり、ローランド様はお話するつもりはありません。お引き取りください」  さきほどよりも怒気を強めて、今にも食ってかかりそうになっているベニーの背中を、空いてる手で宥めるように触れてから、すっと隣に並んだ。 「ローランド様?」 「アーサー卿、取り乱してしまい、大変失礼いたしました。それで、話とは何でしょうか?」 「ローランド様が無理をなさって、話を聞く必要はございません。焦らなくてもそのうち、身の丈にあった話が舞い込んでくるはずです」 「ベニー、ただ話に耳を傾けるだけだ。今すぐ、どうこうなるわけでもない」  自分に言い聞かせるように告げる。  ベニーの助けを借りてこの場を何とかしても、やり手の伯爵の今後の行動を考えたら、違う方法でアクセスされる恐れがあることが予測できる。  それなら今この場で対処すれば、後々面倒くさいことにならずに済むかもしれない。 「ああ、聡明な男爵で助かる。頭の固い執事殿には、ぜひとも柔軟な対応をしてもらいたいものだね」 「ベニーのその点については、屋敷に帰り次第対処しましょう。それでわざわざこの場で切り出すようなお話とは、いったい何でしょうか?」 (アーサー卿の話が、簡単にあしらえるものだといいが――) 「ゼンデン子爵の残された土地について、国王様にご相談を受けている最中でね」 「ゼンデン子爵は、父がかかった流行り病と同じ病気で、少し前に亡くなられたばかりでしたよね?」  ベニーに目配せすると、小さく頷いた。  亡くなられたゼンデン子爵は、30代前半の若さだった。奥様との間には子どもはおらず、父と同じ病に倒れたのがきっかけで、彼の経歴を知ることになった。 「ああ。このたびの税金の徴収を上手くやってのけた実績をもとに、男爵を国王様に推薦しようと思ってる。男爵が住んでいる場所と少々離れてはいるが、通えない距離ではないだろう?」 「僕を推薦!?」 「詳しい話は、パーティーが終わってからにしようか。最後まで楽しんでくれたまえ」  そう言うと伯爵は目の高さまでグラスを掲げてから、素早く身を翻してしまった。

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