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抗うことのできない恋ならば、いっそこの手で壊してしまえばいい12
***
「アーサー様は間もなくお見えになりますので、もう少々お待ちくださいませ」
そう言って執事がいなくなってから、ベニーと一緒に気になる部分をチェックした。
案内された部屋は、大きなお屋敷には似つかわしくない、こじんまりとしたところだった。部屋に置かれた装飾品がどこか色あせて見えるのは、年代物のせいなのだろうか。
舞踏会の会場に飾られていた煌びやかなものとは、真逆のものばかり。だが――。
「ここは、アンティークルームみたいですね。この絵画とあちらに飾られている絵画のタッチと、隅に書かれた名前の筆跡を見比べてみます」
「こういう美術品については、さっぱり疎くて。助かるよ、ベニー」
「ああ思った通り、同じ作者でした。だとすると、この置物も――」
執事として白手袋を着けているベニーは、ここぞとばかりにあちこちを調べはじめた。細かいところは彼に任せて、僕は目についたところから指摘してみる。
「この部屋と繋がっているらしい扉は、鍵がかかってる。僕らに覗かれたくない部屋だから、きっちり鍵をかけたんだろう」
ドアノブをがちゃがちゃ動かしながら呟くと、それを聞いたベニーは指摘した扉の向かい側にある、もうひとつの扉のドアノブを握りしめた。
「こちらの扉は、鍵がかかっておりません。中の様子は……。ここと同じ類の部屋のようです。金色の間という名前がしっくりくるような品が、たくさん置かれております」
ベニーは肩を竦めながら、僕に説明する。その表情は、芳しいものではなかった。僕の趣味と同じく、華美なものを嫌う傾向にあるせいかもしれない。
大きく開け放たれた扉から顔を覗かせると、ベニーの言った通り金箔で装飾された品や金塊などが、ここぞとばかりに飾られていた。それらが照明の光を受けてギラギラ煌めく様子は、目に眩しすぎてどうにも落ち着かない。
「アーサー卿が僕の好みを理解しているとは思えないが、あっちの部屋に招かれなくて良かった」
「ええ、本当に。これだけ目に眩しいものに囲まれていては、注意が散漫する恐れがございます。とりあえず、提供されるお飲み物にはご注意ください」
「分かった。シャンパンの二の舞を踏まないように、気をつけることにする」
「それと――」
何かを言いかけて言葉を飲み込むベニーは、凍りついたように固まってしまった。
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