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抗うことのできない恋ならば、いっそこの手で壊してしまえばいい17

『私に何かが起こって、どうしてもお助けできない場合は、お願いですからどうか見捨てて、ローランド様おひとりで逃げてください。いいですね』  舞踏会の会場でキツく言われたことが、頭の中を駆け巡る。伯爵から手を放された今なら、扉に向かって逃げることが可能だった。 (アーサー卿に卑怯者呼ばわりされようが、ベニーとの約束を守るのが最優先事項だ。何としてでも逃げなくては――)  このまま背中を向けたら、伯爵に襲われる気がした。足を引っかけるものがないか背後を気にしながら後退りしつつ、確実に扉に向かう。 そんな僕を捕まえることなく、伯爵は胸の前に腕を組んで、悠然と眺めていた。 「男爵、俺は君にだけ優しいが、他の奴にはそんな情けをかけないからな」 「…………」 「君がこのまま出て行ったら、さきほど逢った用心棒が控える部屋に、執事殿を連行する」  それは、ちょうどドアノブに触れたときに告げられた。てのひらに感じるドアノブがなぜだか冷たくて、まるで氷を掴んでいるみたいだった。 「用心棒三人がかりで、執事殿をどうするか……。日頃のうっ憤を晴らすのにサンドバッグにされるか、あるいは性的欲求を満たすために弄ばれてしまうのか。どっちにしろ、ボロ雑巾のように扱われるのは目に見える」 「そんなの、あんまりだ……」 「これをとめることができるのは男爵、君しかいないんだよ」  ドアノブを動かして扉を開けて、廊下に飛び出る。そのまま真っ直ぐ走って、突き当りを右に曲がり、すぐさま左に曲がって正面玄関を目指せばいい。  頭の中で次の行動が指示されているというのに、扉の前に立ち竦んだまま、動くことができなかった。ドアノブを掴む手ですら、ぴくりとも動かせない。 「ベニー……」 「心の優しい男爵の気持ち、俺は分かっているよ。さぁこの手を取りたまえ」  伯爵はそこから動くことなく、僕に向かって右腕を差し出した。

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