97 / 332

抗うことのできない恋ならば、いっそこの手で壊してしまえばいい19

 さっきまでいた部屋と違って、中の照明は落とされ、その代わりにところどころ小さなランプが置かれていた。そのなんとも言えない薄暗さに、気味の悪さを感じる。 「躰が震えているね。まずはここに座って落ち着いてくれ、準備をするから」 「準備?」  座らされたのはベッドの上で、余計に落ち着くことができなかった。握りしめた拳に、しっとりと汗がにじんでいく。 「夜は長い。乾杯してから、お互いのことをゆっくり知り合わないか?」  あからさまに怯える僕を見ても、伯爵は呆れることなく、ワインのコルクを手際良く抜き取り、グラスに注いでいく。僕は静かに注がれる赤い色を、黙ったまま見つめた。  このあと自分は、どうなってしまうのか――手渡されたグラスに問いかけても、血のように赤い液体は何も教えてはくれない。 「俺たちの明るい未来に乾杯!」  くっついて隣に座った伯爵は、持っているグラスをぶつけて、勝手に乾杯する。 「せっかく乾杯したのに、一口も飲まないなんて無粋だな。しょうがない、俺が飲ませてあげる」  サイドテーブルに持っているグラスを置き、僕のグラスを手にして半分だけ飲む。ぼんやりと横目でそれを見ていたら、いきなり頬に手を当てて、くちびるを重ねてきた。 「ンンっ……」  少しずつ口内に入ってくるワイン。空気を吸うように、それをどんどん飲み込んだ。酸味の中にほんのりとした甘さもあって、そこまでアルコールを感じずに済んだけれど――。 「やぁっ、あっ…んあっ……」  流し込むワインがなくなったというのに、伯爵の舌が僕を感じさせようと怪しく蠢いた。はじめての行為に変な声が出てしまったことで、感じるよりも恥ずかしさのほうが上回り、頭の中がパニックになる。 「アーサー卿ぉっ、おやめく、ださぃ。んっ…は…ぁっ」  両手で伯爵の胸元を押して、何とかキスを中断させることに成功した。 「済まないね。若いワインの味を堪能していたら、つい夢中になってしまった」 「いえ……。もう自分で飲めますので」 「そう、だったらこれくらいは飲んでもらおうか」

ともだちにシェアしよう!