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抗うことのできない恋ならば、いっそこの手で壊してしまえばいい19
さっきまでいた部屋と違って、中の照明は落とされ、その代わりにところどころ小さなランプが置かれていた。そのなんとも言えない薄暗さに、気味の悪さを感じる。
「躰が震えているね。まずはここに座って落ち着いてくれ、準備をするから」
「準備?」
座らされたのはベッドの上で、余計に落ち着くことができなかった。握りしめた拳に、しっとりと汗がにじんでいく。
「夜は長い。乾杯してから、お互いのことをゆっくり知り合わないか?」
あからさまに怯える僕を見ても、伯爵は呆れることなく、ワインのコルクを手際良く抜き取り、グラスに注いでいく。僕は静かに注がれる赤い色を、黙ったまま見つめた。
このあと自分は、どうなってしまうのか――手渡されたグラスに問いかけても、血のように赤い液体は何も教えてはくれない。
「俺たちの明るい未来に乾杯!」
くっついて隣に座った伯爵は、持っているグラスをぶつけて、勝手に乾杯する。
「せっかく乾杯したのに、一口も飲まないなんて無粋だな。しょうがない、俺が飲ませてあげる」
サイドテーブルに持っているグラスを置き、僕のグラスを手にして半分だけ飲む。ぼんやりと横目でそれを見ていたら、いきなり頬に手を当てて、くちびるを重ねてきた。
「ンンっ……」
少しずつ口内に入ってくるワイン。空気を吸うように、それをどんどん飲み込んだ。酸味の中にほんのりとした甘さもあって、そこまでアルコールを感じずに済んだけれど――。
「やぁっ、あっ…んあっ……」
流し込むワインがなくなったというのに、伯爵の舌が僕を感じさせようと怪しく蠢いた。はじめての行為に変な声が出てしまったことで、感じるよりも恥ずかしさのほうが上回り、頭の中がパニックになる。
「アーサー卿ぉっ、おやめく、ださぃ。んっ…は…ぁっ」
両手で伯爵の胸元を押して、何とかキスを中断させることに成功した。
「済まないね。若いワインの味を堪能していたら、つい夢中になってしまった」
「いえ……。もう自分で飲めますので」
「そう、だったらこれくらいは飲んでもらおうか」
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