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抗うことのできない恋ならば、いっそこの手で壊してしまえばいい20
伯爵はさきほどのグラスを僕に戻し、減った以上のワインを足していく。なみなみと注がれてしまった赤ワインを前に、絶句するしかない。
「さぁさぁ、そんなふうに固まっていないで、遠慮せずに飲むといい。俺も付き合うよ」
同じ量を自分のグラスに注ぎ入れ、隣で美味しそうに飲む姿を見つめる。手にしたグラスの重さのせいで、飲む気には到底なれなかった。
「男爵、飲むんだ。さもないと――」
言葉の続きが聞きたくなかった僕は、煽るようにグラスの中身を一気に空けた。風呂に浸かっているときと同じように、躰が熱くなっていくのを感じていたら、グラスにワインがふたたび注がれる。
「今度は味わう感じで、ゆっくり口にするといい。上品にね、こうやって飲むんだよ」
頼んでもいないのに、またしても口移しでワインを飲ませる伯爵に、抵抗する気はおろか、されるがままでいるのがやっとだった。正常な判断ができないのは、普段飲まないお酒を、一気に飲んだせいかもしれない。
「ふ、くぅっ……」
「このワインのように、頬を真っ赤に染めて可愛いね。いますぐにでも、食べてしまいたいくらいに熟してる。ここもこんなに熱くして」
「や…め…うっ!」
カタチの変わってしまった敏感な部分に触れられたというのに、麻痺したみたいに両手が使えず、抗う力がさっぱり沸かない。できることなら持ってるグラスの中身を、伯爵に浴びせたいくらいなのに。
そんな僕の気持ちを知っているか、手にしてるグラスを奪うなり、ベッドの上に押し倒された。酔いのせいで、天井がゆらりゆらりと回っている。
「もう少しだけ、男爵を酔わせてからと思っていたが、色っぽい声を出す君に堪らなくなってしまった」
伯爵は笑いながら胸元で結ばれたタイを解き、服を脱がしにかかる。
奥歯をぎゅっと噛みしめて、これ以上変な声をあげないようにしつつ、泣きだすまいと意地になって何とか我慢した。躰を奪われても心だけは渡さないという、自分なりの小さな抵抗だった。
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