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抗うことのできない恋ならば、いっそこの手で壊してしまえばいい24
「やはり私の出生も、ご丁寧にお調べになったのですね。話題作りが大好きな伯爵らしい行動ですが、そんな無駄なことばかりにかまけて、お仕事のほうは大丈夫なのでしょうか」
心配しているとは到底思えない口調で指摘すると、嬉しそうに瞳を細めた。まるで待っていましたというリアクションに、嫌な予感が脳裏をよぎる。
「そういう執事殿こそ男爵が一大事のときに、こんなところで呑気に寝ていたんだ。このあと頭を下げて、詫びをいれなくてはいけないだろう。そんなんだから前にいた屋敷で、男娼の館に売られてしまったといったところか」
「養父母を悪く言わないでいただきたい!」
「だって、君が売られたのは事実だ。孤児院から子どもを数人引き取れるくらいに、裕福な貴族だったのに、お人好しが過ぎた結果、ある者にまんまと騙されて、借金を抱えることになった」
これ以上返答したら、それを好機に口撃を仕掛けてくることが想像ついたので、両手を握りしめて怒りを何とか抑えた。
「反論しないのかい? 君は借金のカタに売られたんだろう」
「……そうです。ですが私自ら、それを志願したのです。ぅ、売られたわけじゃない」
内なる怒りで、声が震えてしまう。
(どこかで気持ちを切り替えないと、伯爵にしてやられてしまう――)
「男娼まで落ちぶれた君が、今やアジャ家の執事にまで成り上がったのは、男爵の出生に関係しているのか?」
「ローランド様は、どちらにいらっしゃるのでしょうか?」
「質問に答えないと、男爵の居場所は教えない」
ぴしゃりと言い放った伯爵の対応に、今度は自分から仕掛けてみる。
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