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抗うことのできない恋ならば、いっそこの手で壊してしまえばいい25

「分かりました。まだ日は昇っておりませんが、扉をひとつひとつ開けてさせていただいた上で、しらみ潰しにローランド様を探すことにいたします」 「大勢の従者が未だ夢の中にいるというのに、朝っぱらからわざわざ騒ぎたてるなんていう、無粋なことをしないでくれ。まったく、口だけは達者な執事だな。男爵なら隣の続き部屋にいる」 「ありがとうございます、アーサー伯爵」  あっさり吐露した伯爵に深く一礼をして、その場を立ち去ろうとした矢先だった。いきなり左肩を強引に掴まれるなり、耳元に顔を寄せられる。突然詰められた距離に、躰を強張らせて不快感をつのらせると、吐息混じりで囁きかけてきた。 「ぅ、つっ!」  伯爵に告げられた言葉が頭の中でリフレインして、胸の奥が嫌な感じでざわめく。この不快感は、ここで一番最初に野菊の香りを察知したときによく似ていた。 「執事殿がどんな手を使って阻止してくるのか、非常に楽しみだよ。俺は奪うと決めたら、絶対に手に入れるがね」 「そんなこと――」 「たとえばそうだな、執事殿がその美貌を使って男爵を誘惑するのなら、俺なりの戦術でそれをぶち壊してあげよう。俺からの宣戦布告、受けて立つだろう?」  肩を掴んでいた手が呆気なく外され、放り出すように隣の部屋に押される。つんのめりながら前へ進んだが、直ぐに立ち止まった。  今すぐにでも、ローランドの傍に駆け寄りたい気持ちがあるというのに、見えない何かがその思いを削ぎ落す。  力なく首だけで振り返ると、伯爵は廊下に出るところだった。どんな表情でこの場をあとにしたのかを考えるだけで、反吐が出そうになる。 『男爵の躰だけじゃなく、心もほしいと本気で思わされた。あわよくば恋人になりたいと考えているのだが、結構お似合いだと思わないか?』  伯爵の言葉が、どうにも信じられなかった。短期間でいろんな方々と浮名を流す、彼だからこそ尚更だ。  脅迫にも似たその言葉に対抗すべく自分のすべきことは、そんな伯爵の魔の手から、今度こそ主を守らなければならないということだった。  どんな手を使ってでも――。

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