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抗うことのできない恋ならば、いっそこの手で壊してしまえばいい27

*:,.:.,.*:,.:.,.*:,.:.,.。 『男爵、俺に抱かれる覚悟をしたみたいだね。それが顔に出ているよ』 「…………」  唇だけじゃなく、額や頬にもたくさんキスを落とされた。かなりくすぐったかったが、奥歯を噛みしめて嫌悪感をやり過ごす。目の前に伯爵がいなければ、シーツで拭い去りたい気分だった。 『声が出ないように歯を食いしばっているようだが、躰は正直に反応してる。分かるだろう?』 「んっ!」  言いながら、触れてほしくない部分を指先でイヤラしくなぞられたせいで、思わず腰が跳ねてしまった。ワインの酔いのせいで、いつも以上に敏感になっていることを思い知らされる。 『君のはじめてを奪う俺の高揚する気持ち、伝わるといいな。男爵が忘れないように、その身に刻んであげよう』  薄暗い部屋の明かりを受けた伯爵の顔が、幽霊や魔物の類に見える。そのせいで抵抗する腕の力だけじゃなく、普通に呼吸することすらままならなくて、頭の芯が痺れはじめた。  酸素の足りない脳では、正常な判断ができずにいるのに、肌に這わされる舌や指が僕の感じる部分を探り当てようと、丹念に動くたびに、理性を放り出したくて堪らなくなる。 「アーサー卿…もっ、おやめくださ、ぃっ、ううっ!」  下半身に直に受ける、何とも表現しがたい圧迫感や苦しさから逃げようと、両足をジタバタさせるのが精いっぱいで――。 「ぁあ、ああっ!」  だがこの苦痛のお蔭で、自分の中にある理性を手放すことはなかった。最後の最後まで、抵抗する気持ちを持ち続けることができた。  そんな僕の姿に興醒めしたのか、アーサー卿は絶頂するなり部屋を出て行った。きっと、つまらない玩具と思われたに違いない。

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