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抗うことのできない恋ならば、いっそこの手で壊してしまえばいい30

*:,.:.,.*:,.:.,.*:,.:.,.。  伯爵の言葉どおり国王陛下からの手紙は、翌週の月曜に送られてきた。  執務室にある机でそれを読みふけった後に、思わず大きなため息をついてしまった。その内容が僕ひとりでは、どうにも解決できないものばかりだったから。 「なんていうかこれは、畑違いと表現したらいいかもしれない。参った……」 「そのご様子はもしかして、ゼンデン子爵の所有する土地で栽培している作物は、育成が難しいものなのでしょうか?」  傍らに控えていたベニーが、眉根を寄せながら問いかけた。  僕の雰囲気から言葉の意味を素早く理解した後の質問は、無駄が省かれたもので、執事としての彼の知力が表れていた。けれどさすがのベニーでも、きっと難問になるであろう。 「ゼンデン子爵の土地では、紅茶の葉を栽培しているそうだ。質のいいものは、王室にも卸しているらしい。男爵家で昔から手がけている農作物なら、おおよその経費や年間の収穫量が見積れると思っていた。だから多少ここと離れていてもあっちの領主を中心にして、やり取りすることは可能だと考えていたのに、当てが外れてしまった」  持っていた手紙を机に置き、印刷された『王室』という文字を指先でなぞってみる。 「王室御用達ですか……。ローランド様が引き継がれてから天候不順以外での不作をのぞき、何か大きな問題が発生した場合、国王様に推薦した伯爵に、責任を追求する者が出るかもしれませんね」 「まぁ敵が多いお方だから、いたしかたないだろうが」 「私が伯爵を貶める作戦を立てます」  胸に手を当てながら身を乗り出し、突飛な発言をしたベニーに向かって、黙ったまま首を横に振った。 「なぜなのです? 復讐するチャンスが目の前に転がっているというのに、ローランド様は見過ごすというのですか」  同意を促すまなざしで見つめられても、承諾するわけにはいかない。だって今の僕は、アジャ家の当主なのだから――。 「復讐なんてくだらないマネをするよりも、任せられた領地を問題なく治めるのが僕の責務だ。これくらいお前にだって、分かっているはずだろう?」 「アジャ家の名前に傷がつかない方法を考えますゆえ、なにとぞ」  これ以上の言葉を聞きたくなかった僕は、すぐさま立ち上がり、身を乗り出しているベニーの頬を思いきり叩いた。

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