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抗うことのできない恋ならば、いっそこの手で壊してしまえばいい32
(――執事という職業だけじゃなくベニー個人として、自らの失態を嘆いているように見えるのは、僕の考えすぎだろうか?)
「頼みがある。手紙が届いたことと一緒に、陛下に謁見したい旨を電話してほしい」
「畏まりました」
「日程が分かったら、すぐに知らせてくれ。ひとりで行く準備をする」
「準備など私がいたします。それに、おひとりで運転して行かれるなんて――」
「お前はここで待機してくれ。今週は領主が中間報告に顔を出すと、前から決まっているのだからな。屋敷を留守にするわけにはいかない」
僕の指摘を受けて、ベニーは驚きを隠せない表情を浮かべた。もしかしたら今回の出来事で、スケジュールが飛んでしまったのだろう。
「確かに……」
何とも言えない微妙な顔つきから、彼のショックを改めて思い知った。
「大切な仕事を忘れるくらいに、冷静さを欠いていることを自覚してほしい。頭を冷やせ」
「……ローランド様は大丈夫なのですか? つらくはないのでしょうか?」
(自分のことよりも僕を心配するなんて、本当にできた執事だ――)
「お前の過去の出来事に比べたら、まだマシだと思える。つらい過去を乗り越えてきたベニーが傍にいるから、僕は強くなれるんだぞ」
腰かけていた椅子から立ち上がってベニーの前に佇み、彼の右手を両手で握りしめた。
「そんなふうに言われてしまったら、しょげている場合ではないですね。ローランド様のお役に立てるように、もっともっと精進しなくては」
「当然だ。僕は国にいる貴族の中で一番の最年少で、経験も浅い。こんなことはわざわざ言うまでもないが、そんな僕を支える執事は、優秀じゃないとダメだろう?」
「必然的に、そういうことになります」
握りしめたベニーの右手に、ぎゅっと力がこもる。たったそれだけのことで、安心感が増すから不思議だ。
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