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抗うことのできない恋ならば、いっそこの手で壊してしまえばいい33

「今回のように、ベニーと離れて仕事をすることになっても、お前に恥じないように一生懸命に頑張ってみせる」 「お願いがございます」  言いながら片膝をついて、しっかりと僕を見上げたベニーの表情は、頼りがいのある執事の顔をしていた。 「なんだ?」 「困ったことがあれば、屋敷に連絡をしていただけたらと思いまして。解決できるものであれば一緒に考えますし、駆けつけることが可能な場所であれば、馬に乗ってお傍に馳せ参じます」  挽回してみせるという思いが、アクセントになって言の葉に込められたのを、ひしひしと感じとった。主として、それを見過ごすわけにはいかない。執事としての、彼の資質を上げるために――。 「分かった、必ず連絡する。まずはさきほど頼んだ電話の件、早急にしてくれ」 「はい、ただちに!」  ベニーの右手を僕から解放したのに、名残惜しげに指先を一瞬だけ掴んでから手を放す。  ちょっとした行為にときどき戸惑ってしまうのは、こういうのをしたことがないのと、される機会がほぼないせいだった。  どんな気持ちで、それをしたのかがさっぱり分からない。 「ベニー……」  かけた声を振り切るように素早く立ち上がると、身を翻して執務室を出て行った。 (慣れない仕事をするだけでもいっぱいいっぱいなのに、相手の気持ちを推し量る余裕がないのも困りものだな。少しずつ、両方こなせるようにならなければ!)

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