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抗うことのできない恋ならば、いっそこの手で壊してしまえばいい57
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貴族の集いから帰宅したローランドは、夕飯も食べずにそのまま浴室へと消えた。
ベニーは複雑な心境を抱えた状態で、細い背中を見送る。
屋敷に帰る道中も、ローランドが車内でずっと無言でいたため、話しかけられなかった。
(私のせいで、伯爵に酷いことをされたのが分かるだけに、なんてお声をかけたらいいのか……)
うなだれるように俯き、下唇を噛みしめたまま浴室のドアの横に待機して、ローランドが出てくるのを待った。
「ベニー、頼みがある」
シャワーの音が止み、暫しの間が経ってから自分を呼ぶ声が聞こえたので「失礼します」と一言添えて、静かに扉を開ける。
着替えを終えたローランドが、おずおずと両腕を差し出した。
「手首の擦り傷に薬を塗って、包帯を巻いてほしい」
拘束具で擦れたと思しき、痛々しい両手首の傷を見て、ベニーは迷うことなくローランドの躰を横抱きにした。
「寝室にて治療いたします。お疲れでしょうから、このまま私が運びますね」
「ベニー……」
「こんなことしかできない役立たずの執事で、大変申し訳ございません。」
歩きながら謝罪したベニーに、ローランドは首を横に振った。
「僕こそ、なにもできなかった。せっかくベニーが考えてくれた作戦を実行する前に、アーサー卿に見破られてしまった……」
沈んだローランドの声がベニーの胸に突き刺さり、抱えている両腕に自然と力がこもる。
「今回もお守りできなかっただけじゃなく、大変な目に遭われて――」
「おまえが気にすることはない。男爵という低い身分にいる以上、上からの命令には逆らえないのだから」
「そのお立場は理解いたします。だからといって伯爵のなされることは、あまりに横暴だと進言させてください」
「横暴なことばかりじゃないんだ、それに参ってる」
ローランドは静かに告げると、ベニーの肩口に顔を埋めた。話しかけにくい雰囲気を察して、無言のまま寝室に向かうしかなく――。
(横暴なことじゃないものに参ってるとは、いったいどういう意味なのだろうか)
胸の中にもやもやしたものを抱えた状態で、ローランドを寝室まで丁寧に運んだのだった。
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