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抗うことのできない恋ならば、いっそこの手で壊してしまえばいい58
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ローランドをベッドに腰かけさせてから、別室に保管している治療道具を取りに走ったベニー。どうやってローランドの心中を聞けばいいのか――そのことばかりが、頭に浮かんでは消えていく。
「少々傷口にしみると思いますが、我慢してください」
そこまで深手ではないものの、大きな擦り傷がいくつもあった。そのことでローランドが抵抗したのが、容易に想像できたからこそ――。
「……こんな傷を作る伯爵を、私は許せません」
「おまえがそう言ってくれるのは嬉しいけど、あからさまに毛嫌いすると、また僕が攻撃されるかもしれないんだぞ」
「承知しております。そこはうまく取り繕ってみせましょう」
目の前にある顔を見ず、傷の手当てに集中したお蔭で、いつもどおりの会話が成立したのがきっかけとなり、ベニーの口元に笑みが浮かぶ。
「やっと笑ったな」
喜びに満ちた声に誘われて顔をあげると、ローランドが微笑んで自分を見ていた。
「ローランド様も……」
「僕のは空笑いだ。そうでもしていないと、泣き出したくて堪らなくなる」
ベニーは手早く手首の包帯を巻きながら、慰めの言葉を考えた。しかし何を言っても、ローランドの心の傷を埋めるようなものは思いつかず、無意味に奥歯を噛みしめる。
「アーサー卿に酷いことをされたあとに、貴族の集いに参加した。気乗りしない僕を隣に置いて、彼の口から僕のことが告げられると、他の貴族たちがこぞって話しかけにやって来た」
「伯爵の晩餐会では誰ひとりとして、そのようなことをなさった方は、いらっしゃらなかったですもんね」
「本来なら、新米男爵の僕から挨拶に伺わなければならないのを、一切しなかったからな。不躾な若造相手に、誰が話しかけるものか」
巻かれた包帯に視線を落としながら、自嘲的な笑みを唇にたたえるローランドを、ベニーは黙って見つめた。
相変わらず慰めの言葉が見つからないのと、ローランドの口から胸に抱えた何かを告げるのではないかという緊張で、いつも以上に大人しくなってしまう。
仕方なくローランドから視線を外し、出しっぱなしにしている治療道具を片づけはじめた矢先だった。
「ベニー、僕は自分の気持ちがわからない。だってアーサー卿にひどい目に遭わされたのに、彼に優しくされると、胸が痛くて潰れそうになるんだ」
「ローランド様?」
笑い声から一転、涙声に変わった言葉で視線を戻す。ローランドの大きな瞳から、とめどなく涙があふれていた。
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