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抗うことのできない恋ならば、いっそこの手で壊してしまえばいい64
「自分の手によって、好きなお方を感じさせることができて、私は嬉しいんです。しかしながら抵抗されると、これ以上のことができません」
ベニーの赤茶色の瞳から涙がぽたぽた零れ落ち、ローランドの頬を濡らした。
「ベニー……」
背けていた顔を真正面にしたら、悲痛な表情をしたベニーが眉根を寄せて、ぶるりと躰を震わせる。
「私が好きになったお方は、いつも別の誰かを愛するんです」
「おまえはどうして、僕を好きになったんだ?」
ローランドからの問いかけを聞き、ベニーは握りしめていた両手をそっと放した。首をもたげたまま力なく躰の上から退くと、ベッドの脇に腰かけて、あからさまに距離をとる。
「ベニー、答えろ」
ローランドに背を向けたベニーは、いつまでたっても答えようとしなかった。
無言を貫く大きな背中を見ながらローランドは起き上がり、乱れた朱い髪を整える。視線を飛ばした先にある、自分以上に乱れた長い髪に、やわやわと右手を伸ばした。
「……せっかくの綺麗な長い髪が、台無しになってる」
絡んでいるところを解すように、手櫛で何度も髪を梳かすローランドを見ずに、ベニーは焦点の合わないぼんやりした話し方をする。
「貴方様を襲った私に、情けをかけるおつもりですか……」
「情けをかけるとか、そういうことじゃない。だっておまえは、僕の大切な執事だからだ」
優しさを感じさせる物言いに、ベニーはうなだれながら口を開いた。
「やはり面倒見のいいところは、親子と言うべきなのでしょう。貴方様の父親共々、そういうお優しいところに、私は惹かれたんです」
「父?」
突然なされた告白に、髪を梳かしていた手が止まった。
「気づいていらっしゃるのでしょう。亡くなった前男爵が、自分の父親ではないことに」
「ああ……」
ローランドは止めた手を動かし、絡んでいる髪を綺麗にしてから、自分の膝の上に置いた。ベニーは相変わらず背中を向けたまま、空虚な空間を見つめ続ける。その態度がわざと壁を作っているように思えて、ローランドは悲しくなった。
大事な話をしようとしているというのに、顔を突き合わせようとせず、そっけない素振りをするベニーの横にローランドは強引に並び、あえて躰をくっつけた。
「ローランド様?」
おずおずとローランドを見下ろすベニーの目元に、シャツの袖を押しつけて、手荒な感じで涙を拭った。それなのに目尻にはすぐに涙が滲み、最初に拭った頬がふたたび濡れていく。
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