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抗うことのできない恋ならば、いっそこの手で壊してしまえばいい65
「ベニー、いい加減にしろ。これじゃあキリがないだろ」
「申しわけございません。ローランド様のお手を煩わせてしまい……」
「それはいいんだ。僕がやりたくて、勝手にやっているんだから。それにおまえの涙が止まらないと、まともな話し合いにもならないだろう?」
ベニーは涙を拭うローランドの手を握りしめて、自分の胸に押し当てた。
「ローランド様の本当のお父様は、私の初恋の方なのです」
反対の手でポケットからハンカチを取り出し、静かに拭いながらポツポツと喋る。
「孤児院出身のおまえが、男娼になるまでの経緯は知っているが――」
「私は6歳で子供のいない貴族の養子になり、衣食住を含めて、まともな生活をさせていただいた話を以前しましたね」
そのときのことを思い出したのか、つらそうだったベニーの表情が少しだけ明るくなった。
「おまえの出生の話はどこか翳りがあって、詳しく聞けなかったっけ」
「そこのお屋敷には私よりも先に、孤児院から引き取られた子どもがおりました。一人っ子のままでは寂しいだろうと、老夫婦が私を養子に迎い入れてくれたのです」
「もしかして、その子どもが……」
「名はケヴィン。10歳以上年の離れた兄弟となったのですが、まるで本当の兄のように、私に接してくれました。憧れが恋心に変化したのは、思春期あたりになってからでしょうか。あの頃は、いつまでも一緒にいられると思っていたのに」
「老夫婦に、なにかがあったんだな?」
ベニーの手によって握りしめられていたローランドの手が、優しく胸を撫でた。いたわるようなその仕草に、ベニーは顔を俯かせて微笑んだ。
「ええ。人のいいおふたりでしたので、詐欺に遭われてしまったんです。他人の借金を、背負わされてしまいました」
唇に浮かんだ微笑みはあっけなく消えてなくなり、ベニーは持っていたハンカチをぎゅっと握りしめる。ローランドは、当時の悔しさを垣間見た気がした。
「その借金の返済をするために、おまえは男娼の館へ売られたのか」
「老夫婦には反対されたのですが、多額の借金を返すために、自分から身売りしました。今までお世話になったのですから、当然のことかと。私が屋敷から去る際は、おふたりそろって泣きじゃくっておられました」
「兄のケヴィンはどうした?」
ローランドは胸を撫でていた手を使って、ベニーのシャツの襟元を掴み、躰を揺すりながら問いかけた。男娼というつらい仕事を自ら請け負ったベニーを見、兄としてどんな仕事に就いたのかとても気になった。
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