147 / 332

抗うことのできない恋ならば、いっそこの手で壊してしまえばいい69

*:,.:.,.*:,.:.,.*:,.:.,.  次の日ベニーの運転で、王都にある伯爵の屋敷に向かった。 (久方ぶりにお逢いするせいで、変に緊張してしまう)  ローランドは後部座席で何度も手櫛で前髪を直したり、着ているスーツの襟元を直したりして、無駄に忙しなく動いていた。  そんな落ち着きのないローランドをベニーはルームミラーで見ながら、優しく話しかける。 「ローランド様、大丈夫でごさいますよ。もうすぐ到着いたします」 「わかった……」  ベニーの言葉を聞いて、落ち着きのない自分を改めて思い直し、両手を膝の上に置いた。 「玄関前に、黒塗りの車が横付けされております。どなたか先に、お客様が見えられているようですね」  指摘した高級車の後ろに車を停めたベニーは、後部座席のドアを開けようと素早く降り立つが、気が急いたローランドは自分で開け放ち、颯爽と屋敷に向かう。  逸る気持ち抑えるために息を整えて、豪勢な扉をノックしようとしたときだった。ローランドの目の前で、自動的にゆっくりと扉が開け放たれた。そこにいたのは――。 「誰かが来た気配がしたから開けてみたのですが、クリシュナ男爵だったのね。ごきげんよう」 「ゼンデン子爵の奥様……、ご機嫌麗しゅうございます」  慌てて頭を下げて挨拶したローランドに、未亡人は満面の笑みを浮かべた。 「亡き夫が丹精込めて育てていた畑の管理は、もう慣れましたか?」 「はい、おかげさまで……」  唐突に現れた未亡人に、ローランドは目まぐるしく思案に暮れる。彼女と伯爵が関わり合いがあるのは明白だった。理由は、自分がその土地を譲り受けたから。  まぶたを伏せて口を引き結び、居心地の悪そうな表情をするローランドに、未亡人はわざとらしく下から顔を覗きこんだ。 「貴方、今日はアーサーに呼ばれていないでしょう。何をしに、ここに来たのかしら?」  くすくす笑いながらなされる問いかけに、ローランドはひどく焦った。親しく伯爵の名を呼ぶ、未亡人の存在の大きさを目の当たりにし、嫌な汗が背中を伝う。 「そ、それは、アーサー卿にご相談したいことがありまして。急ぐ案件でしたので、ここに参った次第でございます」 「クリシュナ男爵は、嘘が下手なようね。ハッキリ仰ればよろしいのに。愛するアーサー卿にお逢いするために、わざわざやって来たって。彼は私と逢うのに忙しくて、貴方とは随分とご無沙汰ですものね。もしや、躰が疼いてしまったのかしら?」 「…………」 「悪いけど、アーサーはとても忙しいの。私との結婚を控えて、そりゃあもう、てんてこ舞いの忙しさなのよね」 「け、っこん」

ともだちにシェアしよう!