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抗うことのできない恋ならば、いっそこの手で壊してしまえばいい81
「ベニーは男娼出身ということもあって、抱かれる側の気持ちがよくわかるのでしょうね。キスひとつとっても、すごく気持ちがいいのです。口を使って自分のモノを愛撫されるときは、それはもう」
「俺と執事殿を比べて、とても楽しそうだね男爵」
「僕としては楽しい話をしてるつもりは、一切ございません。好きでもない男に抱かれて、自らの性欲を満たしているだけの話です」
「だったら――」
伯爵は苛立ちまかせに靴音を立ててローランドに近づき、細い手首を荒々しく掴んで、ベッドのある扉に向かった。
「アーサー卿……」
ローランドの呼びかけを無視して、大急ぎで扉の鍵を開ける。カシャンという金属音がするなり、ローランドは薄暗い部屋へと手荒に連れられた。その顔には、なんとも言えない笑みがこぼれる。
「男爵の躰に残ってる執事殿の痕跡を、今すぐ俺の手で消してやろう」
伯爵がベッドに引っ張り込む直前に、ローランドは掴まれている腕を無理やり振りほどいた。
「男爵?」
ここに来て抵抗されるとは思わなかったので、伯爵は啞然としながら話しかけた。
「ここでお逢いしてから、どうして僕の名を呼んではくださらないのですか?」
「あ……」
「それだけじゃない。貴方は空いてるその腕で、一度も僕を抱きしめてはくれなかった」
「気分を害したのなら謝る、済まなかった。いいわけになってしまうが、君を抱きしめてしまったら、理性を保てなくなりそうで怖かったんだ。俺はこれから、妻と子を持つ身。だから……」
「子どもができただけで、保守的になるんですね。遊び人の貴方らしくない」
「遊び人なんて、ひどい言い草じゃないか。男爵のことは、本気で恋をしていたのに」
しょんぼりした表情でローランドを見つめる伯爵に、寂しげな冷笑を頬に浮かべた。
「『恋をしていた』という、過去形になさるとは。じわじわとそうして距離をとられる僕の気持ちが、アーサー卿にはわからないのでしょうね」
沈んだ声で告げながら、内ポケットから『それ』を取り出した。
「だっ、男爵、いやローランド、待て、落ち着け!」
「僕はいつだって落ち着いてました。取り乱されているのはアーサー卿、貴方のほうです」
「手にしている物をしまってくれ。これじゃあ落ち着いて、話なんてできやしないじゃないか」
「グロック19。オートマ式の銃で、国王軍も愛用しているくらいに精度の高いものですけど、そんな説明をしなくても、アーサー卿ならご存知ですよね」
花が咲いたような笑みを見せつけながら、両手で銃をかまえる。狙われた伯爵は両手を上げつつ、後退りするしかなかった。
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