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抗うことのできない恋ならば、いっそこの手で壊してしまえばいい83

「もう二度と嘘はつかない! 君に誓う!!」  涙ながらに訴える伯爵の眉間に、音もなく銃口を移動させた。 「色目を使って、僕以外の人を誘わないでください」  淡々とした口調で告げられたせいで、伯爵は全身が汗で濡れていくのを感じた。感情のこもらないローランドの声色に、底が見えない恐怖を覚える。 「わかった、わかった! 色目は使わないっ」  ローランドは了承する言葉を聞いたあとに、伯爵の耳の穴に銃を移動させる。 「この耳で、他の人の誘いを聞かないでください」 「もっ、もちろんだよ!」  今度は下唇に、冷たい銃口を押しつけた。いつ撃たれるかわからない怖さで、最高潮に躰が震える。 「この口で、愛してるなんて言わないでください」 「わかってる。君だけを愛するから!」  伯爵が答えた瞬間、ローランドの瞳が大きく見開かれる。エメラルドグリーンの中にある瞳孔も、一緒に大きくなった。 「僕は言わないでと、お願いしたのに……」  突き刺すようなまなざしを真正面から受けた伯爵の顔色は、完全に血の気を失っていた。勢いで口にしてしまった自分の言葉を、いまさら嘆き悲しんでもすでに遅しーー。 「あ……ぁあ、しまった」 「僕と逢ったときに、いつものように抱きしめてくれたら、この銃を持ってることがわかったでしょうね」  慰めに似た言葉を聞き、震える躰を律しながら伯爵が口火を切る。 「あのときはあのときで、俺なりの事情があったんだ。しょうがないだろう」 「ご自分の事情を、今ここで持ち出すのですね」  ローランドから蔑む視線を注がれて、奥歯をぎゅっと噛みしめた。動揺しているところをこれ以上見せないようにするためか、伯爵は思いきって右手で銃身を掴み、下唇からズラした。 「君から言いたいことが山ほどあるだろうが、男爵という立場を思い出すといい。伯爵の俺に銃口を向けるだけじゃなく、こうして脅すなんて、失礼を極めているんだぞ」 「退けろと仰るのですね」 「当たり前だ!」  掴んだ銃口の先を自分から逸らすべく、力を込めて少しずつ横に移動させた。伯爵とローランドでは力の差が歴然としているので、銃口をズラすこと自体は簡単だったが、いつ発射されるかわからない現状のやり取りに、伯爵の精神は次第に疲弊していく。 「このタイミングで権力をかざす、アーサー卿の愚かさは残念としか言えません」  パンっ!  鋭い銃声が響き、弾丸は金属音を伴って伯爵の顔のすぐ横に放たれた。

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